<判決紹介>
コメント: 請求項1の「食物摂取抑制有効量」を「食欲抑制に有効な量」に補正することが、「減縮」に該当するかどうかという点について、明細書の記載内容が考慮された事例。 裁判所は減縮に該当しないと判断した。 拒絶審決維持。 ☆
■平成24年(行ケ)第10350号審決取消請求事件
■平成25年08月09日判決言渡、知的財産高等裁判所
■原告: デュポン ニュートリション バイオサイエンシズ エイピーエス (審決上の名称:ダニスコ エイ/エス)
■被告: 特許庁長官
■特許出願: 特願2002-578889号
■請求項1 (補正前): 哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む組成物。
■請求項1 (補正後): 哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物。
第5 当裁判所の判断 当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 取消事由1(補正の目的に係る判断の誤り)について (1) 「食物摂取抑制有効量」と「食欲抑制に有効な量」の関係について 本件補正は,食欲抑制のための組成物中の有効成分であるポリデキストロースの量について,本願発明では「食物摂取抑制有効量」とされていたものを,本願補正発明では「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」とするものである。 本願補正発明の「食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」の意義は,一義的に明確に理解することはできないため,本願明細書の記載を検討する。 本願明細書(甲3)には,「食欲抑制有効量」という用語について,「…上記の食欲抑制有効量で投与される。好ましい量はポリデキストロースについて既述した量である。」(【0068】)との記載はあるが,食欲抑制有効量の具体的な数値については何ら記載されていない。 一方,本願明細書(甲3)には,「食物摂取抑制有効量」に関して,以下の記載がある(下線は裁判所が付した。以下同じ。)。 「【0015】したがって,本発明は,水素化ポリデキストロースを含むポリデキストロース,又は,その組み合わせからなる群から選択される満腹化剤の食物摂取抑制有効量を,動物,例えば哺乳動物の食事又は間食時における食物摂取を抑制するために,動物,例えば哺乳動物に投与することを含む,動物の空腹抑制方法を指向するものである。・・・ 【0016】また,本発明は,動物に満腹感を与える有効量で上記に定義される満腹化剤を投与することを含む,動物の満腹化方法をも指向するものである。」 「【0034】・・・満腹化剤は食欲抑制を可能とする食物摂取抑制有効量で対象者に投与される。・・・ 【0035】ここで使用される「食物摂取抑制有効量」又はこの同義語は単独で又はポリオールの相乗有効量と組み合わされたポリデキストロース等の食物摂取を抑制するために投与されるべき満腹化剤の量を称するものであり,体重1kg当たりの乾燥重量ベースである。投与方向を考慮してそのような量を計算するには当業者の設計事項である。満腹化剤は約15から約700mg/kg/日,好ましくは約200から約450mg/kg/日の範囲の量で投与されることが好ましい。かくして,満腹化剤は約1から約50g/日,好ましくは約15から約30g/日の範囲の量で動物(例えばヒト)に投与されることが好ましい。」 上記によれば,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と何ら異なるものではないと認められる。 したがって,「食物摂取抑制有効量」を「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と補正する本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることは,本願の優先日(平成13年4月9日)において,食物繊維分野における当業者の技術常識であった(甲15,16)として,食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのように異なるのかについて本願明細書に記載がなくても,優先日当時の当業者にとって,本願補正発明の「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」が技術的な意味の異なる量を意味することは明確であったと主張する。 しかし,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることが当業者の技術常識であったとしても,当業者が上記(1)で認定した本願明細書の記載に接した場合,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ 原告は,食物摂取量を抑制する原因は,例えば食物が食べにくいものであることや,食物が対象者の嗜好性に合わないことといった,食欲の抑制以外の因子があり得ること,すなわち,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことは当業者の技術常識であったと主張する。 しかし,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことが当業者の技術常識であったとしても,当業者が上記(1)で認定した本願明細書の記載に接した場合,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ 原告は,現実にダイエットを行っている者において,食物摂取量は意図的に抑制されているが,食欲は必ずしも抑制されていないように,「食物摂取抑制」には,食欲も抑制されている場合と,食欲が抑制されていない場合の両方が含まれると主張する。 しかし,「食物摂取抑制」に食欲も抑制されている場合と,食欲が抑制されていない場合の両方が含まれるとしても,上記(1)で判示したとおり,本願明細書の記載によれば,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括 よって,原告主張の取消事由1は理由がない。 |
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