優先日前の意に反する公知はNG/平成7年(行ケ) 第148号審決取消請求事件


平成90313
原告: セントレ・ デエチューデ・プール・ランダストリエ・ファーマセテイク
被告: 大原薬品工業株式会社 等
特許: 特許1072819
請求項1: 
次式..
……別紙A
 (式中Xは酸素原子または硫黄原子を表し、Rはフェニル基;ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、フェニル基、カルボキシル基、ヒドロキシメチル基及びメチレンジオキシ基からなる群から選ばれた少なくとも1つの置換基で置換されたフェニル基;ハロゲン原子で置換されたスチリル基;ハロゲン原子で置換されたチエニル基;ベンズヒドリル基を表わし、R1は―CH2―,―CH2CH2―,<33152-001>を表す。)で表されるピリジン誘導体またはこれらの治療用に投与し得る第四アンモニウム誘導体若しくはこれらの治療用に投与し得る酸付加塩からなる血液泥化によって誘発される疾病用治療剤
コメント: 「優先日」よりも前に意に反して公開された場合には、30(新規性喪失の例外)の適用を受けられないという判決。 無効審決維持。☆

理由
第1 請求原因(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決取決事由の当否を検討する。
1 本件発明がその特許を受ける権利を有する原告の意に反して引用例に発表されたこと、及び、本件発明が同発表の6月以内である1976年 1月2日フランス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願されたことは当事者間に争いがない。したがって、優先権の基礎となる同日が、本 件発明が原告の意に反して特許法29条1項3号に該当するに至った日から6月以内であることは明らかである。
・・・。
ところで、特許法30条2項の規定の適用については、優先権主張を伴う特許出願をどのように取り扱うか明文の規定は存しないが、パリ条約4 条のBは、第一国出願の日と第二国出願の日との間に行われた当該発明の公表等の行為により第二国出願が不利益を受けないことを定めたものであって、第一国 出願より前に行われた行為により不利益を受けないことを定めたものではないこと、特許法30条2項の規定は、新規性喪失の例外規定であって、優先権主張を 伴う特許出願について、同項に規定する「特許出願」は第一国出願の出願日を意味すると解すると、新規性喪失の例外期間を1年6月まで拡大することにより、 この規定の趣旨に反して特許を受ける権利を有する者に不当な利益を得せしめる結果となること等に照らすと、日本国を第二国出願とする優先権主張を伴う特許 出願については、同項に規定する「特許出願」の日は、日本国においてなされた特許出願の日を意味すると解するのが相当であって、パリ条約4条を根拠として これと異なる解釈をする余地はないというべきである。成立に争いのない甲第9号証(【I】作成の鑑定書)に記載された上記判断と異なる意見は、当裁判所の 採用するところではない。
 原告は、特許法104条所定の「特許出願」の日は、その出願が優先権主張を伴うときは優先権主張日であるとする判例を引用して特許法30 条2項に規定する「特許出願」についても同様に解釈すべきである旨主張するが、特許法104条と同法30条2項とは、その規定の趣旨を異にするから、後者 についても前者と同一の解釈をすべき合理的理由はない。
 したがって、「本件発明の日本における特許出願は、優先権の基礎となる1976年1月2日にしたものとして、特許法30条2項の規定の適用を受けることができる」という原告の主張は、失当である。
3 以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当として肯認しうるものであって、本件発明の特許は特許法29条1項3号に違背してなされたものであるから同法123条1項1号の規定により無効とすべきものであるとした審決に、原告主張のような違法は存しない。
第3 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための期間の附加について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、94条後段、158条を適用して、主文のとおり判決する。
(東京高等裁判所 裁判官 竹田稔 春日民雄 持本健司)




判決文

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