STAP細胞の特許出願の今(2018年2月)

STAP細胞の日本の特許出願(特表2015-516812)に拒絶査定がでたそうです。
・日本のSTAP特許出願に拒絶査定
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180223-00081916/

これまでの経過は以下の通りです。

 2012/04/24:優先日(米国)
 2013/04/24PCT出願
 2014/10/24:国内移行(日本)
 2017/03/07:拒絶理由通知書
 2017/09/07:補正書、意見書
 2018/02/20:拒絶査定 ←いまココ
当初請求項1は下記でした。
「【請求項1
細胞をストレスに供する工程を含む、多能性細胞を生成する方法。」
これに対して、3/7の拒絶理由通知書では、新規性、進歩性、実施可能要件、サポート要件、明確性、産業上の利用可能性に関する拒絶理由が通知されました。
出願人は、9/7の補正書で、以下のように請求項1を補正していました。
「【請求項1
細胞を、低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.45.8pHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法。」
STAP
細胞は未だに再現されていないので「多能性細胞」での権利化はさすがに厳しいことから、再現性がある(と思われる)「Oct4を発現する細胞」に補正したということだと思います。
そして今回、拒絶査定が出ました。拒絶理由は、サポート要件違反、実施可能要件違反です。
(次回は拒絶査定不服審判にいきます(出願人が希望すれば)。)
サポート要件に関しては以下の通り判断されました。

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<特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について>
 平成29223日付け起案の拒絶理由通知書の理由4<サポート要件1>に記載したとおり、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明の記載から把握できる発明の課題は、細胞をストレスに供することによって細胞を脱分化させて多能性細胞を生成することであると認められる([0002]-[0018])。一方、補正後の請求項1には、生成するものについて、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊としか規定されていない。すなわち、補正後の請求項1に係る発明は、あらゆる発現レベルでOct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法を包含するものである。
 ここで、細胞の分化・脱分化誘導においては、Oct4遺伝子は多能性マーカーの1つではあるものの、当該遺伝子の発現のみをもって多能性細胞が生成したということができないことが本願出願時の技術常識である。さらに、その発現レベルについても、例えば、ES細胞等と比較して生物学的に意義のあるレベルで発現することが請求項に規定されているわけでもなく、その発現レベルにかかわらず単にOct4を発現するという性質を有する細胞を含有する細胞塊を生成したというだけでは、細胞を脱分化させて多能性細胞を生成したこと、すなわち、本願発明の課題を解決したことにならないことは、出願時の技術常識に照らし、明らかである。そうすると、発明の詳細な説明には、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊であれば、本願の上記課題を解決できると当業者に認識できる程度に記載されているとはいえない。
 請求項2-21に係る発明についても同様である。
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実施可能要件に関しては以下の通り判断されました(下線は拒絶査定のままです)。
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<特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について>
 特許法第36条第4項第1号の規定は、その発明の属する技術分野において研究開発のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味する。
 ここで、細胞の分化・脱分化誘導に関する技術分野においては、細胞を脱分化させて多能性細胞を生成するには、外来遺伝子導入等が必須と認識されており、そのような処置なしには多能性細胞への脱分化を誘導し得ないことが、本願出願時における当業者の技術常識であったと認められる(例えば参考文献8の第5頁右欄下から2段落目参照)。そして、平成29223日付け起案の拒絶理由通知書の理由3<実施可能要件1-1>に記載したとおり、本願の発明の詳細な説明の実施例において示された内容はNature論文と同内容のものと認められるところ、当該論文取り下げ及び再現実験の結果という事情に鑑みれば、現時点においては、当該論文において確認された現象は、その信憑性については疑義があり、また、再現不可能なものというほかない。つまりこのことは、Nature論文と同内容の実施例を具体的根拠とする、本願の発明の詳細な説明の内容についても妥当するものであり、実施例における記述自体にかかわらず、外来遺伝子の導入等なしに細胞を脱分化させ多能性細胞を生成することや、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成するという発明の技術内容が、発明の詳細な説明において明確かつ十分に記載されているとはいえないことを意味する。
 したがって、本願の発明の詳細な説明には、上記補正後の請求項1に係る発明について、外来遺伝子の導入をすることなく多能性幹細胞への脱分化を誘導し得ないという技術常識にもかかわらず、細胞をストレスに供するだけで脱分化させ多能性細胞を生成すること、あるいは、多能性を示す可能性がある細胞としてOct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成することが実施可能である、といえる程度に明確かつ十分には記載されていない。
 請求項2-21に係る発明についても同様である。
 この点について、本願出願人は、平成2997日付けの意見書において、以下の2点について主張している。
「上述の通り、新請求項1に係る発明は、「細胞を低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.45.8pHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法」です。このストレス条件(即ち、ATPにより調整された5.45.8の低pHストレス)については、本願の発明の詳細な説明において、Oct4遺伝子を発現する細胞を含有する細胞塊を生成したことが具体的に示されています(本明細書の段落[0155][0164][0190][0196]等をご参照ください)。従いまして、本願の発明の詳細な説明は、新請求項1に係る発明を、当業者が実施可能であるといえる程度に明確且つ十分に記載しており、また、新請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものです。」(本願出願人の主張1
「参考文献の1つとして審査官殿より引用された「11.Hitoshi Niwa, et al.Scientific Report20166月,628003p.1-9doi 10.1038/srep28003」には、新請求項1に係る発明が、当業者により再現できた事実が明確に示されています(当該文献のp2、下から8行目~2行目;p3、上から16行目~23行目及び上から27行目~31行目;p5、上から1行目~4行目及び下から8行目~5行目、図1等をご参照ください)。具体的には、当該参考文献中のこれらの箇所においては、ATPを用いての低pHストレスを細胞に与えることによって、細胞塊が生成し、且つ当該細胞塊にはOct4遺伝子が発現している細胞が含まれていたことが端的に記載されています。従いまして、新請求項1に係る発明は、本願明細書の実施例においてだけでなく、当該技術分野において一流誌の1つと認められている学術雑誌に掲載された論文によっても実施可能であることが実証された発明にほかなりません。
 上記のように、ATPにより調整された5.45.8の低pHストレスに細胞を供することにより、Oct4遺伝子を発現する細胞を含有する細胞塊が生成されることは、他の当業者による追試によって、その再現性が確認されているわけですから、少なくとも、その点について記載された本願実施例の内容は、信憑性に疑義はなく、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて、再現可能なものであることは明らかであります。」(本願出願人の主張2
 まず、本願出願人の主張1について検討する。
 本願明細書[0155][0164][0190][0196]には、Oct4-GFPGOF)マウスから入手した脾臓から回収したCD45陽性細胞を、低pHへ曝露させ、GFP発現細胞をFACSを使用して同定し、分別し、回収して、Oct4の遺伝子発現をRT-PCRによって確認したところ、細胞をOct4を発現するように変化させることができたことが記載されている。さらに、脳、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄、肺及び肝臓をOct4-GFPGOF)マウスから回収し、低pHへ曝露させることにより、細胞をOct4-GFPを発現するように変化させることができたことも記載されている。
 しかしながら、平成29223日付け起案の拒絶理由通知書の「理由34(実施可能要件、サポート要件)について」に記載したとおり、本願の発明の詳細な説明の実施例において説明された内容は、本願出願後に公開されたNature誌掲載の参考文献4及び5の内容と同じものであり(以下、参考文献4及び5をまとめて「両Nature論文」という。)、当該両Nature論文には、本願の発明者が共著者として名を連ねていることから(特に、参考文献4の共著者には本願発明者全員が含まれる)、この特許出願と論文発表は、ともに本願発明者らによって行われた同一の研究活動によって得られた成果に基づくものであるといえる。そして、両Nature論文は共に201473日に取り下げられ、その際、それぞれの著者全員による文面として「これらの複数の誤りは本研究の信頼性を全体として損なうものであり、STAP幹細胞の現象が真実であるか否かについて、我々は疑いなく述べることができない。」と記載されている(参考文献67112頁それぞれの最終段落)。さらに、当初本願の共同出願人であった理化学研究所における解析の結果において、Nature論文につき、用いられた全てのSTAP細胞関連材料はES細胞に由来するものであったことが判明し、細胞ストレスによって多能性細胞へと再プログラム化するという論文の証拠には異議がある、との結論となったものと認められる(参考文献10の第E5頁右欄第2段落)。そうすると、両Nature論文に掲載された実験データを取得した一連の研究活動と同一の研究活動に基づく本願明細書記載の実験データは、本願明細書に記載されたとおりの手法により得られたものであるか否かが不明であり、その信憑性について疑義があるというほかない。
 したがって、本願出願人の上記主張1は採用することができない。
 次に、本願出願人の主張2について検討する。
 本願出願人が主張するとおり、参考文献1には、ATPを用いての低pHストレスを細胞に与えることによって、細胞塊が生成し、且つ当該細胞塊にはOct4遺伝子が発現している細胞が含まれていたことが記載されている。
 しかしながら、他の当業者による追試によって、少なくともOct4遺伝子の発現という現象については、その再現性が確認されたとしても、そのことをもって、本願明細書記載の実験データが、本願明細書に記載されたとおりの手法により得られたものであったことを証明したことにならないことは明らかであるから、本願出願人の上記主張2は採用することができない。
 また、参考文献1において、細胞塊にOct4遺伝子が発現している細胞が含まれていたことが端的に記載されているとされた実験では、GOFマウスから得られた肝臓を低pH条件で処理し、定量PCRによって内在性のOct3/4の発現がES細胞におけるOct3/4発現の10%以上に達するものが存在することが示されている(参考文献1 Figure 3)。しかしながら、本願明細書に記載された実施例において、低pH条件での処理後にOct4発現を確認しているのは、GOFマウスから得られたCD45陽性細胞を対象とするものであって、参考文献1で使用された肝臓細胞とは異なっている。また、本願明細書に記載された実施例において、GOFマウスから得られた肝臓を低pH条件で処理した後に発現を確認しているのは、Oct4-GFPであって、参考文献1で確認した内在性のOct3/4とは異なっている。すなわち、参考文献1に記載された実験データは、本願明細書に記載された実施例と同じ方法及び条件によって得られたものとはいえず、当初明細書に記載されていた事項であったとすることはできない。そして、参考文献1に記載された実験データは、本願出願後に得られたものであることが明らかであるところ、サポート要件及び実施可能要件の判断にあたり、明細書等に記載されていなかった事項について、出願後に補充した実験結果を参酌することはできない。
 したがって、本願出願人の上記主張2は採用することができない。
 よって、請求項1-21に係る発明は、依然として、発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
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サポート要件、実施可能要件ともに面白い論点が挙がっているので、審判も要チェックですね。

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