2025年の正月に読んだ特許実務関連の論文

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年末年始は最近できてなかった特許実務の勉強をしようと考えていたのですが、なかなか手を付けられず、予定の半分くらいしかできませんでした。この業界は新しい判決が出たり、制度が変わったり、新しい技術が出てきたりで勉強することがつきませんね。

今回は正月に読んだ特許実務関連の論文をいくつかご紹介します。

✓米国特許訴訟における否定的限定の判断傾向と対策
(国際第1委員会、知財管理2024年7月号、843-854頁、抄録

米国での否定的限定(Negative Limitation)が関係した裁判事例が紹介されています。否定的限定に関しては、Novartis v. Accord Healthcare(2022年6月21日)のCAFC判決があり、請求項中の「直前のローディング用量投薬を伴うことなく」の限定が記述要件を満たさないと判断されていました。この論説では、他にサポートがあると判断された事例が2件、されていないと判断された事例が3件紹介されており参考になります。

✓中国特許権の禁反言に関する調査研究
(国際第3委員会 第1小委員会、知財管理2024年9月号、1078-1103頁、抄録

中国特許の禁反言に関する5つの事例が紹介されています。現地代理人の見解も記載されており、実務的に興味深いポイントが解説されていて参考になります。事例の1つをご紹介しますと、請求項の「すべての線間電圧出力の振幅が実質的に等しい」という記載の「実質的に」を削除する補正(不明確の指摘を解消するための補正)を行った場合に、保護範囲が「完全に等しい」に解釈されなかった事例が記載されています(事例III:(2020)最高法知民終1593号)。技術常識を参酌して、許容変動範囲内で等しいと理解すべきと判断されたそうです。結構重要な論点なので、他の国だったらどういう事例があるのかも気になるところです。

✓海外注目判決:No.98 [中国]「請求項のさらなる限定」による訂正の具体的要件を示した最高人民法院判決
(本橋たえ子、知財管理2024年11月号、1481-1491頁、抄録

特許無効審判中の請求項の訂正の可否が争点となった(2021)最高法知行終556号事件(最高人民法2023年12月12日院判決)について解説されています。中国の訂正の方式は4つ(①請求項の削除、②技術法案の削除、③請求項のさらなる限定、④明らかな誤りの訂正)があり、上記事件では③が問題となりました。具体的には、特許権者は、請求項1を「請求項1+2+4+6+7」に訂正すると同時に、請求項3(請求項1を引用している)を独立請求項にすることを試みた結果、審判と一審は認めず、二審(最高人民法院)は認めたということのようです。

✓今更聞けないシリーズ:No.211 製造方法の発明は出願しない方がよいのか?
(高橋政治/水野基樹/常藤加菜/右田俊介、知財管理2024年11月号、1492-1497頁、抄録

製造方法を出願するか、出願せずにノウハウにするかは、絶対的な答えを出すことは難しく、状況に応じてどこかで思い切って判断するしかないタイプの問題かと思います。この論説ではノウハウとした場合のメリット・デメリットや、出願した方が良いのはどのような場合か、について解説されています。考慮すべき事項がきれいにまとまっており参考になります。

✓AI関連発明の外国出願における記載要件に関する事例研究
(特許第1委員会 第2小委員会、知財管理2024年11月号、1410-1422頁、抄録

以前ブログでご紹介しましたように、AI(人工知能)分野の特許登録件数が増加しています。この論説では、近年の米国、欧州、中国のAI関連特許の審査事例が紹介されています。各国にAIに特有の審査基準があるかどうかや、日本とは異なる特徴的な審査がされているかという観点からの解説があり参考になります。

✓光免疫療法薬についての知的財産研究-治療に複数工程を要する医薬品の例として-
(医薬・バイオテクノロジー委員会第1小委員会、知財管理024年6月号、701-713頁、抄録

光免疫療法薬の分野における「複数主体が関与する特許権侵害」について解説されています。具体的には、仮想特許の請求項1に、(1)抗体-光感受性物質複合体を投与する工程、(2)レーザ光を照射する工程、の2つの工程(又は用途)の記載がある場合で、後発医薬品の製品ラベルに(1)を医師が実施し、(2)を放射線技師が実施することが記載されている場合の、米日欧の侵害成否について検討されています。米国では医師単一主体による直接侵害、後発メーカーの誘因侵害が成立すると考えられるそうです。

✓EPO拡大審判部の審決(G2/21)と当該審決を踏まえた実務上の提案
(ペーター ヘッヒャール/佐伯奈美、知財管理2024年4月号、411-424頁、抄録

出願日後に提出された証拠(実験データ)に関する拡大審判部の審決(G2/21)と、関連する審決について解説されています。後出しデータで進歩性を出していくというのは非常に重要なスキルですので、実務の参考になります。また、当事者を代理した長谷川先生のウェブサイトでも詳しく解説されています。

✓除くクレームの有用性についての検討
(令和 4 年度特許委員会第 2 部会 第1 チーム、月刊パテント 2024年5月号、45-60頁、全文

化学分野、非化学分野の特許出願の「除くクレーム」の審査事例が記載されています。事例を2つご紹介しますと、化学分野の事例2として、「進歩性」の拒絶理由で引用された主引例の発明の一部を除く補正をし、新規事項追加の指摘を受けた後、反論によって拒絶を解消した事例が記載されています。また、事例17として、点ではなく面で除く補正が許可された事例が記載されています。除くクレームは審査官によって判断が異なることがまぁまぁあるように思いますので、過去の事例を参考にするのは実務上有益と思います。

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