<判決紹介>
■平成16年09月16日、東京高等裁判所
■原告: シャイアー バイオケム インコーポレイテッド
■被告: 特許庁長官
■特許出願: 平成7年特許願第527244号
■請求項1: ヒトにおいて,2-ヒドロキシメチル-5S-(シトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン耐性又は2-ヒドロキシメチル-5-(5’–フルオロシトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン耐性のヒト免疫不全ウイルスの感染を治療するのに用いられる医薬調合物であり,当該医薬調合物は:
2R-ヒドロキシメチル-4R-(シトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン;
2S-ヒドロキシメチル-4S-(シトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ;
2R-ヒドロキシメチル-4R-(5’–フルオロシトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン;
2S-ヒドロキシメチル-4S-(5’–フルオロシトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ;
それらの薬学的に許容された塩,及びそれらの薬学的に許容されたエステルより選択された化合物を含み,その用量は2-ヒドロキシメチル-5S-(シトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン耐性又は2-ヒドロキシメチル-5-(5’–フルオロシトシン-1’–イル)-1,3-オキサチオラン耐性のヒト免疫不全ウイルスの感染を治療するのに有効な量であり,当該医薬調合物は薬学的に許容される担体を更に含む,医薬調合物。
■コメント: 薬剤A耐性ウイルス感染治療用の薬剤A’の進歩性が争点となった事例。 裁判所は、「薬剤の有効性を確認するための実験を行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであり,また,実験をすることに格別の困難もないのであるから,その実験が成功することが予測できないということだけから,進歩性を認めることができない」と判断した。 拒絶審決維持。 ☆
▼審決の理由: 「3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,「国際公開第92/08717号パンフレット(以下,審決と同じく「引用刊行物1」という。)に記載された発明及び「Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, Vol. 3, No. 8 pp. 1723-1728, 1993」(以下,審決と同じく「引用刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができない,とするものである。 4 審決が認定した,引用刊行物1記載の発明の内容,本願発明と引用刊行物1記載の発明との一致点・相違点 (1) 引用刊行物1記載の発明の内容 「薬学的に有効な量の2-ヒドロキシメチル-4-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン又は2-ヒドロキシメチル-4-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン,及び薬学的に許容されるキャリアからなるHIV感染に有効な医薬調合物」(審決書3頁) (2) 本願発明と引用刊行物1記載の発明との一致点 「「薬学的に有効な量の2-ヒドロキシメチル-4-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン又は2-ヒドロキシメチル-4-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン,及び薬学的に許容されるキャリアからなるHIV感染に有効な医薬調合物」である点」(審決書4頁) (3) 本願発明と引用刊行物1記載の発明との相違点 「本願発明が,「2-ヒドロキシメチル-5S-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン耐性又は2-ヒドロキシメチル-5-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン耐性のヒト免疫不全ウイルスの感染を治療するために, 2R-ヒドロキシメチル-4R-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン; 2S-ヒドロキシメチル-4S-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ; 2R-ヒドロキシメチル-4R-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン; 2S-ヒドロキシメチル-4S-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ; それらの薬学的に許容された塩,及びそれらの薬学的に許容されたエステルより選択された化合物」を使用するのに対し,引用刊行物1記載の発明では,治療対象のヒト免疫不全ウイルス(HIV)の限定,並びに,2-ヒドロキシメチル-4-(シトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオラン及び2-ヒドロキシメチル-4-(5’-フルオロシトシン-1’-イル)-1,3-オキサチオランの立体配置の限定,がない点」(審決書4頁)」 ▼裁判所: 「3 原告は,本願化合物1と3TCとで構造がきわめて類似していることから,当業者が,本願化合物1が交差耐性を持つと考えるのは当然であり,原告のしたような実験を行うことは,容易に想到できるものではない,と主張する。 しかし,本願化合物1と3TCとの構造の間で,ペントース環の酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わったという差しかないとしても,それが,交差耐性の発生の蓋然性にどの程度影響するのかについて,原告は具体的な主張をせず,これを認定できる証拠もない。 また,糖部分の構造が類似していると,交差耐性が生じやすいと認識されていたとの点について,例えば甲第9号証(ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY (1993) Vol.37 p130-133)の表3において,その11番目の「HIV-111 B 」は,ddIに対してはEC 50 (uM)の値が,「236.4±19.0」と,他のHIVウィルスと比較して非常に高い耐性を有する(一桁ないし二桁異なる。)のに対し,ddIと糖部分の構造が類似するddCに対しては,「0.78±0.05」と,他のHIVウイルスと比較して同程度の低い耐性しか示さないことが開示されている。また,同表12番目の「HIV-111 B 」も,ddIに対して「134.9±12.8」,ddCに対して「0.55±0.03」と,同様の傾向をもつことが開示されている(別紙参照)。 したがって,構造が非常に類似した化合物が多くの場合に交差耐性を示すと一般に考えられていることを踏まえたとしても,本件において,原告が主張するように,酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わっただけであるとか,糖部分の構造が類似している,との事実をもって,二種の薬剤間で交差耐性が生じると当業者が当然に考え,実験して確認することに思い至らない,ということはできない。 4 本件優先日当時,本願化合物1において交差耐性が生じる可能性がどの程度高いものと考えられていたかは,本件証拠上明らかではない。しかし,交差耐性が発生する蓋然性がある程度高いと考えられていたにせよ,なお,本願発明の進歩性は否定されるものというべきである。その理由は,次のとおりである。 (1) 前記乙第2号証の記載にも現れているように,昭和58年にエイズウイルスが発見されてから,その治療薬の研究開発は喫緊の課題であった。このことは,引用刊行物2の 「後天性免疫不全症候群(AIDS)は現代における惨事となった。AIDSの数と,HIV陽性の症例は急速に増えており,ほとんど10年間にわたって研究努力が行われたにも関わらずあまり抑制されていない。現在AIDSの治療のために承認された薬剤は3つあるが,これらの薬剤は全て,迅速な耐性形成のみならず,骨髄毒性(AZT),末梢神経障害と急性膵炎(ddIとddC)などの重大な,障害に苦しめられている。」(甲第4号証1723頁)の記載にも現れている。 このような状況の下では,交差耐性が生じる蓋然性があっても,薬剤の候補となるべき新規な化学物質を製造したとき,その薬剤が効果を発揮するかどうか実験して確かめるきわめて強力な動機付けが当業者にあることは,明らかである。 (2) 2及び3で引用した文献のほか,HIVウイルスの交差耐性については,甲第7号証(ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY(1991)Vol.35 No.7 p988-991),第10号証(同(1994)Vol.38 No.2 p275-281)においても述べられている。 これらの文献から明らかなように,HIVウイルスの薬剤に対する(交差)耐性を確認する実験方法は,本件優先日当時,周知かつ確立しており,これを実施することに特段技術的困難はなかった,と認めることができる。 (3) 以上のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことに強力な動機付けがあり,実験をすることを選択することは何ら困難なことでもなく,その実験方法も周知なものであって実施に何ら困難はなく,実験を行いさえすれば,交差耐性を示すか否か容易に分かる,すなわち,本願化合物1が効用を有するか否か分かるものである以上,当業者が本願発明を推考するのが容易であることは当然である。審決の相違点についての判断に誤りはない。 (4) 原告の主張は,要するに,実験をしても,望んだ結果が得られることが合理的に予測されるものではない場合,実験をして確認した事実に基づいてした発明には進歩性が認められるべきである,というものである。 しかし,前述のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであり,また,実験をすることに格別の困難もないのであるから,その実験が成功することが予測できないということだけから,進歩性を認めることができないことはいうまでもないのであって,原告の主張は採用できない。 5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決には,取消しの事由となるべき誤りは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所知的財産第3部 裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官設樂隆一 裁判官 高瀬順久(別紙)甲第9号証132頁表3の翻訳文」 |
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