確認実験には進歩性なし/平成15年(行ケ)第405号 審決取消請求事件


平成16914日口頭弁論終結

原告: シャイアーバイオケムインコーポレイテッド

被告: 特許庁長官

特許出願: 平成7年特許願第527244

請求項1: ヒトにおいて,2-ヒドロキシメチル-5S-(シトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン耐性又は2-ヒドロキシメチル-5-(5フルオロシトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン耐性のヒト免疫不全ウイルスの感染を治療するのに用いられる医薬調合物であり,当該医薬調合物は: 2R-ヒドロキシメチル-4R-(シトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン; 2S-ヒドロキシメチル-4S-(シトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ; 2R-ヒドロキシメチル-4R-(5フルオロシトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン; 2S-ヒドロキシメチル-4S-(5フルオロシトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン又は上記の2つのアイソマーの任意の組み合わせ; それらの薬学的に許容された塩,及びそれらの薬学的に許容されたエステルより選択された化合物を含み,その用量は2-ヒドロキシメチル-5S-(シトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン耐性又は2-ヒドロキシメチル-5-(5フルオロシトシン-1イル)-1,3-オキサチオラン耐性のヒト免疫不全ウイルスの感染を治療するのに有効な量であり,当該医薬調合物は薬学的に許容される担体を更に含む,医薬調合物。

■コメント: 望んだ結果が得られることが合理的に予測されるものではなくても、確認実験には進歩性なし、という主旨の判断がされた事例。 拒絶審決維持。 ☆

裁判所:

「4 本件優先日当時,本願化合物1において交差耐性が生じる可能性がどの程度高いものと考えられていたかは,本件証拠上明らかではない。しかし,交差耐性が発生する蓋然性がある程度高いと考えられていたにせよ,なお,本願発明の進歩性は否定されるものというべきである。その理由は,次のとおりである。

(1) 前記乙第2号証の記載にも現れているように,昭和58年にエイズウイルスが発見されてから,その治療薬の研究開発は喫緊の課題であった。このことは,引用刊行物2の「後天性免疫不全症候群(AIDS)は現代における惨事となった。AIDSの数と,HIV陽性の症例は急速に増えており,ほとんど10年間にわたって研究努力が行われたにも関わらずあまり抑制されていない。現在AIDSの治療のために承認された薬剤は3つあるが,これらの薬剤は全て,迅速な耐性形成のみならず,骨髄毒性(AZT),末梢神経障害と急性膵炎(ddIとddC)などの重大な,障害に苦しめられている。」(甲第4号証1723頁)の記載にも現れている。

このような状況の下では,交差耐性が生じる蓋然性があっても,薬剤の候補となるべき新規な化学物質を製造したとき,その薬剤が効果を発揮するかどうか実験して確かめるきわめて強力な動機付けが当業者にあることは,明らかである。

 

…。

(3) 以上のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことに強力な動機付けがあり,実験をすることを選択することは何ら困難なことでもなく,その実験方法も周知なものであって実施に何ら困難はなく,実験を行いさえすれば,交差耐性を示すか否か容易に分かる,すなわち,本願化合物1が効用を有するか否か分かるものである以上,当業者が本願発明を推考するのが容易であることは当然である。審決の相違点についての判断に誤りはない。

(4) 原告の主張は,要するに,実験をしても,望んだ結果が得られることが合理的に予測されるものではない場合,実験をして確認した事実に基づいてした発明には進歩性が認められるべきである,というものである。

しかし,前述のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであり,また,実験をすることに格別の困難もないのであるから,その実験が成功することが予測できないということだけから,進歩性を認めることができないことはいうまでもないのであって,原告の主張は採用できない。

 

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