測定方法を適切に再現できないから実施可能要件/明確性要件違反と判断された事例

 
<判決紹介>
平成28(行ケ)10205 特許取消決定取消請求事件
・平成29614日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1部 清水節 中島基至 岡田慎吾
・原告:キッコーマン株式会社、日本デルモンテ株式会社
・被告:特許庁長官
・特許5694588
・発明の名称:加工飲食品及び容器詰飲料

■コメント
異議申立の取消決定に対する取消訴訟です。異議申立人は川田真衣(個人)です。
クレームに「不溶性固形分の割合」の数値限定がありましたが、その測定方法を当業者が適切に再現できないことを理由に、実施可能要件及び明確性要件を満たさないと判断されました。
請求項1は以下の通りです。
「【請求項1
 野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品であって,
 6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合10重量%以上であり,
 16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合5重量%以上25重量%以下である
 ことを特徴とする加工飲食品。」
取消決定の理由は以下の通り。
  (1)  実施可能要件(特許法3641号)について
 
本件明細書の段落【0038】の「サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」との記載によれば,不溶性固形分の測定に当たり,「なお粘度を有している」か否かの判断基準が必要となる。また,「適宜水洗」する程度についても,何らかの手順等の特定が必要となる。
 
しかしながら,本件明細書においては,何をもって粘度を有していると判断し,水洗が必要であるとするのか,その基準が開示されていない
 
本件発明(本件特許の請求項19に係る発明)が対象とする加工飲食品は,その組成からみて多少の粘度を有していることは明らかであるところ,「なお粘度を有している」ことについての基準が開示されていなければ,その後の水洗の要否を当業者は判断することはできない。そして,水洗が必要であると判断した場合であっても,水洗の手順によって測定結果が大きく変化することは当業者において容易に想像し得るところ,水洗をどのような手順で行うか(例えば,どの程度の水量で,どの程度の水の勢いで水洗するか等)についても何ら開示はされていない
 
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の「不溶性固形分の割合」の測定方法を当業者が適切に再現することができない。  
 
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず,特許法3641号に規定する要件を満たしていない。 
  (2) 
明確性要件(特許法3662号)について
 
本件特許の請求項1に記載された「不溶性固形分の割合」は,上記(1)のとおり,その測定方法が当業者に適切に再現することができないものとなっているため,結局,「不溶性固形分の割合」としてどのようなものが特定されているのか明らかでなく,特定しようとする発明を不明確にしている。請求項1を引用する請求項29についても,同様である。
 
よって,本件特許の請求項19の記載は,特許法3662号に規定する要件を満たしていない。」
裁判所の判断は以下の通り。
(2)  検討
 
明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法3641号)。本件発明は,「加工飲食品」という物の発明であるところ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法231号),物の発明について実施をすることができるとは,その物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解される。
 
したがって,本件において,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,本件発明に係る加工飲食品を生産し,使用することができるのであれば,特許法3641号に規定する要件を満たすということができるところ,本件発明に係る加工飲食品は,不溶性固形分の割合が本件条件(6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり,16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である)を満たす加工飲食品であるから,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,このような加工飲食品を生産することができるか否かが問題となる。
・・・
 しかしながら,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合に追加的に水洗をすると(段落【0038】),本件明細書の段落【0036】に記載された本件測定方法(測定対象サンプル100グラムを水200グラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置するという測定手順のもの)とは全く異なる手順が追加されることになるのであるから,このような水洗を追加的に行った場合の測定結果は,本件測定方法による測定結果と有意に異なるものになることは容易に推認される。このように,本件明細書に記載された各測定方法によって測定結果が異なることなどに照らすと,少なくとも,水洗を要する「なお粘度を有する場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合」であるか否か,すなわち,仮に,篩上に何らかの固形分が残存する場合に,その固形物にメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか,メッシュ目開きよりも大きな不溶性固形分であるのかについて,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて判別することができる必要があるといえる(本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産することができるといえるためには,各篩のメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分により形成される塊が篩上に残存する場合であるか否かを判別することができることを要する。)。
 
しかしながら,本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,特定の方法によって判別することが理解できるともいえない(篩上に残存しているものが,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定に使用される篩は,目開きが16メッシュ(1.00㎜)又は35メッシュ(0.425㎜)のものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について,単に目視しただけでは明らかではないといわざるを得ない。)。
 
そうすると,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,その後の水洗の要否を判断することができないことになる。
 
したがって,本件発明の態様として想定される,「測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)も含めて,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産することができると認めることはできない。
 
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。
(3) 
原告らの主張について
・・・
  原告らは,本件明細書の段落【0038】の「なお粘度を有している場合」との記載は,例外的に本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合,例えば,不溶性固形分がメッシュよりも明らかに大きな塊となっている場合を想定し,本件測定方法を実施する上での注意的な事項として付記的に記載したものであり,ほとんどの場合,本件明細書全体から判断し,追加的に粘度の判定及び水洗を実施せずに,段落【0036】に記載された本件測定方法によって不溶性固形分の測定を行えばよいと判断できる旨主張する。
 しかしながら,仮に,原告らの主張するように,「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)が例外的な場合であったとしても,本件発明の対象である加工飲食品には限定がなく,本件明細書上,上記のような粘度を有する場合が想定されるのであるから,水洗をすることによって各篩上の不溶性固形分の重量を正しく測定することが必要となるのであり,そうである以上,水洗の要否を判断するために,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」に該当するか否かを判別することを要する(もっとも,本件明細書には,その判別方法が開示されておらず,当業者であっても,その後の水洗の要否を判断することができないのは前記認定のとおりであり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。)。
 
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
  原告らは,「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)について,本件測定方法によれば,不溶性固形分の割合が本件条件を満たさないものとなること(ケース13)が想定され,本件発明の範囲外となるから,本件明細書の段落【0038】の記載は,そもそも本件発明の実施に無関係であり支障はないとも主張する。
 
しかしながら,本件測定方法によっても,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」には,適宜,水洗を行い,更に不溶性固形分の重量を実際に測定することで,本件発明に係る加工飲食品が製造されたか否かを確認することになり,その結果,本件条件を満たし,本件発明の技術的範囲を充足することもあり得るのであるから,原告らの想定する事例について,直ちに,本件発明の技術的範囲外のものということはできない(なお,仮に,本件明細書の段落【0038】の記載が本件発明の実施に無関係のものと考えるのであれば,少なくとも訂正請求の手続において削除すべきものと解される。)。
・・・
結論
 
以上のとおり,原告ら主張の取消事由1は理由がなく,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。」
結構前ですが、平均粒子径が不明確って判断された事例もありました(平成20()10013号 特許権侵害差止等請求控訴事件)。

判決文はこちら

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