<判決紹介>
■コメント:
請求項1の「含み」の程度について、効果が考慮された(構成要件充足)。 また、メーカーへの譲渡(優先日前)が、相互に守秘義務を負っていたことを認めるに足りる証拠がないとして、公然実施に該当すると判断された(無効)。 請求棄却。 ☆
■平成24年(ワ)第11800号 特許権侵害差止請求事件
■平成26年3月27日判決言渡、東京地方裁判所
■原告: 東レ・デュポン株式会社
■被告: 宇部興産株式会社
■特許: 特許4777471
■請求項1:
1A1 パラフェニレンジアミン、4,4’–ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’–ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と、
1A2 ピロメリット酸二無水物および3,3’-4,4’–ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分と
1A3 を使用して製造されるポリイミドフィルムであって、
1B 該ポリイミドフィルムが、粒子径が0.07~2.0μmである微細シリカを含み、
1C1 島津製作所製TMA-50を使用し、測定温度範囲:50~200℃、昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α MD が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり、
1C2 前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α TD が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり、
1D 前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルム。
■裁判所の判断:
「第3 当裁判所の判断
・・・。
イ 構成要件1Bの充足性について
(ア) 証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ポリアミック酸溶液は,フィルムの易滑性を得るため必要に応じて,酸化チタン,微細シリカ…などの化学的に不活性な有機フィラーや無機フィラーを,含有することができる。この中では特に粒子径0.07~2.0μmである微細シリカをフィルム樹脂重量当たり0.03~0.30重量%の割合でフィルムに均一に分散されることによって微細な突起を形成させるのが好ましい。粒子径0.07~2.0μmの範囲であれば該ポリイミドフィルムの自動工学検査システムでの検査が問題なく適応できるので好ましい。」(段落【0025】)と記載されていることが認められる。また,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の実施例として,摩擦係数が0.35ないし0.95のポリイミドフィルムが挙げられていること(段落【0061】【0063】ないし【0065】)が認められる。これらを総合すれば,構成要件1Bは,ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07~2.0μmである微細シリカを易滑性が得られる程度に含むことを意味し,少なくとも摩擦係数が0.35ないし0.95のポリイミドフィルムを含むことを意味すると解される。
被告製品は,粒子径がそれぞれ0.01μm前後と0.12μm前後である微細シリカを複数含むところ,証拠(甲28)によれば,被告製品は,摩擦係数が0.52であって,易滑性を有し,この易滑性は,粒子径が0.12μm前後の微細シリカによって得られていることが認められる。そうであるから,被告製品は,粒子径が0.07~2.0μmの微細シリカを易滑性が得られる程度に含むのであって,構成要件1Bの「粒子径が0.07~2.0μmである微細シリカを含」むものに当たる。
・・・
イ 先行発明の公然実施について
(ア) 被告は,別表記載のとおり,平成14年4月5日から平成16年3月12日までの間に,複数の銅張積層体メーカーに対し,先行発明の技術的範囲に属する28本の先行製品のうち,α MD が10.1~14.4ppm/℃であり,α TD が3.5~7.0ppm/℃である19本の全部又は一部を譲渡した。そして,被告や上記銅張積層体メーカーが当該譲渡について相互に守秘義務を負っていたことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 原告は,前記譲渡がCOF用のポリイミドフィルムを共同開発するためであって,相互に守秘義務を負っていたと主張する。
しかしながら,証拠(乙47)によれば,前記銅張積層体メーカーの1社である東レ株式会社が平成15年1月に発行された業界誌に投稿した論文には,α TD をα MD より低くしたポリイミドフィルムがCOF用に適している旨の記載があることが認められ,この事実に照らすと,被告や前記銅張積層体メーカーが相互に守秘義務を負っていたとは考え難い。
原告の前記主張は,採用することができない。
(ウ) そうであるから,被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に,先行発明のうちα TD が3.5ppm/℃以上のものを公然と実施したものである。
ウ したがって,本件発明1は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に公然実施をされた発明であり,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。」
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