先日、抗PCSK9抗体特許の侵害訴訟の件で、知財高裁の判決が公開されました。
・平成31年(ネ)第10014号 特許権侵害差止請求控訴事件(PDF)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/010/089010_hanrei.pdf東京地裁に引き続き、知財高裁も競合特許の特許性(サポート要件、実施可能要件、進歩性)を認めました。(判決紹介記事を近日アップ予定です。)
原判決(東京地裁)は先日のブログで紹介しています。
!https://biopatent.jp/385/
ところで、競合特許のサポート要件、実施可能要件が認められると、侵害予防調査(侵害評価)がちょっと面倒なことになるなと思っています。
以下に仮想事例を考えてみました。●仮想事例====================================
A社は、独自に受容体Zに対する中和抗体の研究を行った。その結果、抗体Xが受容体Zを中和し、且つ癌治療効果を示した。
侵害予防調査(FTO調査)を行ったところ、抗体のアミノ酸配列やエピトープに特徴のある中和抗体の特許が見つかったが、それらの特許の特徴(アミノ酸配列、エピトープ)を抗体Xは有していなかった。
しかし、以下のようなクレームを有するB社の特許が見つかった。【請求項1】抗体Yと競合し、且つ受容体Zに対する中和活性を有する、抗受容体Z抗体。B社の特許の明細書と、A社が調査時点で有する抗体Xの情報を検討しても、抗体XがB社の特許の権利範囲に含まれるかを評価することはできなかった。なぜならば、抗体Yと、抗体Xとの競合試験を行わなければ、競合するかがわからないためである。
そこで、A社はB社の特許の明細書に記載されている抗体のアミノ酸配列をもとに、抗体Yを作製し、抗体Xとの競合試験を行った。
その結果、抗体Xは抗体Yと競合しなかったため、無事に開発を進められることとなった。
=========================================アミノ酸配列やエピトープなどに特徴のある特許は、自社の抗体を分析するだけで侵害の評価ができたのですが、競合特許の場合は、上記のように、他者の抗体を作製(又は購入)しなければ侵害の評価ができないと思われます。エピトープが競合の有無の参考になると思いますが、エピトープが違っても競合する場合がありますので、確実ではありません。さらに、自社抗体の競合の程度がわずかな場合は権利範囲内なのか、外なのかの判断がより難しくなります。
コメント