<東京地裁/エルデカルシトール用途特許の侵害訴訟> 乙1文献に前腕部骨折抑制の記載がないが、当業者が前腕部骨折予防効果があると理解するという理由から新規性がないと判断した事例

 判決紹介 

・令和2年(ワ)第13326号、第13331号 特許権侵害差止等請求事件
・令和4年5月27日判決言渡
・東京地方裁判所民事第46部 柴田義明 佐伯良子 仲田憲史
・原告:中外製薬株式会社
・被告:沢井製薬株式会社、日医工株式会社
・特許5969161
・発明の名称:エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤
 コメント 
中外製薬(原告)は、エディロールカプセル(一般名:エルデカルシトール)を製造販売しています。効能・効果は骨粗鬆症です。
また中外製薬は、エルデカルシトールの用途特許である特許5969161の特許権者です。
本件は、中外製薬が、沢井製薬、日医工(被告ら)の後発品が特許発明の技術的範囲に属するとして、被告らに対して後発品の生産、輸入、譲渡、譲渡の申出及び廃棄を請求した事案です。
本件特許の請求項1、2、4、訂正後の請求項4、5の発明は以下の通りです。
ア 本件発明1
1A エルデカルシトールを含んでなる
1B 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための
1C 医薬組成物。
イ 本件発明2
2A 投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、
2B 請求項1に記載の組成物。
ウ 本件発明4
4A エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、
4B 請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
エ 本件訂正発明4
4C エルデカルシトールを含んでなる
4D 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、
4E 投与される対象がI型骨粗鬆症患者であり、
4F エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、
4G 上記組成物。
オ 本件訂正発明5
5A エルデカルシトールを含んでなる
5B 非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、
5C 投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者であり、
5D エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、
5E 上記組成物。
9個の争点のうち、本件発明1等の「新規性」について、裁判所が判断しました。
本件発明1に関しては、裁判所は、「当業者は、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認められる。」等の判断に基づいて、新規性がないと判断しました。但し、乙1文献には「前腕部骨折」に関する直接的な記載はないようです。
本件発明2に関しては、裁判所は、原発性骨粗鬆症患者は骨粗鬆症患者のうちの一部であるといえること、原発性骨粗鬆症患者を区別することによって新たな効果が生ずることなどの記載はないことから、乙1発明に基づいて新規性がないと判断しました。
判決文を読んだ感じでは、「前腕部骨折予防効果があると理解する」と判断する理由が少し弱いような気もしますが、こんな限定(前腕部)があっても新規性が否定されるんですね。
知財高裁はどのように判断するのでしょうか。(判決が出ているので今週中に記事をアップします。)
また、仮に新規性が認められても、顕著な効果がないとも判断されているため、進歩性が出るかという問題もありそうです。
裁判所の判断の抜粋を以下に記載します。
判決
第3 当裁判所の判断
1 本件明細書について
(1)本件明細書の記載(甲4)
・・・
(2)本件発明の意義
本件明細書の記載によれば、本件発明は、骨粗鬆症の既存の治療薬であるアルファカルシドールとの比較において他の部位に比べて前腕部の骨折抑制効果が優れていることに関する発明であるといえる。
2 本件優先日における技術常識
(1)骨粗鬆症について
・・・
(2)骨粗鬆症の診断、骨粗鬆症薬の評価方法について
(3)骨粗鬆症の治療薬について
(4)ビタミンD及び活性型ビタミンDの転倒予防効果
3 争点2(本件発明1,2,4は、乙1発明に基づき新規性を欠如するか)について
(1)乙1文献の記載
乙1文献は、「骨粗鬆症治療薬:ED-71(判決注:エルデカルシトールを意味する。)」と題する論文であり、次の内容が記載されている(乙1)。
ED-71は、1α,25-dihydroxyvitamin D3(活性型ビタミンD3のこと)の2β位にヒドロキシプロポキシ基を導入した化合物である。
ED-71は、ラットの卵巣摘出骨粗鬆症のモデルを用いたスクリーニングで見出された活性型ビタミンD3の誘導体である。ラットを用いた検討では、破骨細胞数を減少、骨吸収マーカーを低下させ、用量依存性に骨密度を増加させた。アルファカルシドールと同様もしくはやや強い血清カルシウム上昇作用を示したが、同程度のカルシウム上昇作用をもたらす用量で比較すると骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強力であった。ED-71による骨密度の増加は、骨強度の増加を伴っており、健常な骨質が保持されていると考えられる。
ラット骨髄除去モデルにおいて、ED-71が回復初期の骨吸収を抑制して骨形成を高め、血管新生も促進することが示された。この効果は、同用量の活性型ビタミンD3では認められなかった。
原発性骨粗鬆症患者109例に対して行われた前記第Ⅱ相臨床試験においては、0.25、0.5、0.75、1.0㎍/日の連日経口投与により、用量依存的に骨密度の増加が認められた。0.75㎍/日で2.5~3%の椎体骨密度の上昇という、従来の活性型ビタミンD3では見られなかった強力な骨量増加作用が示された。
この結果を受けて原発性骨粗鬆症患者219例を対象に、臨床推奨用量の決定を目的とした後期第Ⅱ相臨床試験が行われた。骨代謝マーカーはいずれも有意に低下し、骨代謝回転の抑制効果が認められた。この検討ではED-71の強力な効果が認められたが、ビタミンD非充足状態の症例が多かったため、ビタミンD補充効果が強く作用している可能性が考えられる。しかしながら、試験開始時の25(OH)D濃度が下位1/4と上位1/4の例における骨密度変化を検討したpost-hoc解析では、0.75㎍/日以上の投与群における骨密度の上昇はビタミンD充足状態にかかわらず同等に認められた。したがって、ED-71はビタミンD補充効果に依存せず強力に骨密度を増加させたものと考えられた。
現在、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目として、ED-71とアルファカルシドールの効果を比較する3年間の大規模な無作為二重盲検試験が進行中である。活性型ビタミンD3誘導体として開発されたED-71であるが、全く新しい機序を介して作用を発揮している可能性もあり、今後の基礎・臨床研究の進展がますます注目される。
(2)本件発明1について
ア本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記によれば、乙1文献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載されており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致している。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」(構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題になる。
イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいても、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患であり(前記2ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているといえる。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位としては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていたと認められる(前記2イ)。
そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれることは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシトールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表題からも、そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すなわち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があることに関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシトールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用することが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知られており(前記2ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトールが骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標になると考えられていた(前記2(2))。これらからすると、当業者は、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認められる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有することに対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認められる。
ウ原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められると主張する。
しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であることが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明においても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミンD受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2(3)ア、(4))が想定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしていると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエルデカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、①前腕部の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトールの方が顕著に優れていること、②前腕部以外の部位においては、エルデカルシトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学上正当であると認められるとしても、①については、本件明細書で明らかにされているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトールがプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールがプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能性もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果がアルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められる(前記3)。②についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であり、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認められる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著な効果を認めることはできない
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部における骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張する。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとはいえない。
エ以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとはいえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠如しているといえる。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1について投与される対象を原発性骨粗鬆症患者に限定したものである。前記で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であるといえる。また、原発性骨粗鬆症患者とは、閉経や加齢が原因で起きる骨粗鬆症であり(前記2エ)、原発性骨粗鬆症患者は骨粗鬆症患者のうちの一部であるといえる。なお、本件明細書には、投与対象として乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって新たな効果が生ずることなどの記載はない。
そうすると、本件発明2のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であり、新規性が欠如している。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1~3について、これを0.75μg/日の用量で経口投与される組成物に限定したものである。乙1文献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いるに当たって、0.75μg/日の用量で経口投与される構成が記載されている。そうすると、本件発明4のうち、本件発5明1及び本件発明2について0.75μg/日の用量で経口投与される構成については、(1)、(2)で説示したのと同様の理由により、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであるから、新規性が欠如している。
4 争点3(本件訂正4、5によって、本件発明4に係る新規性欠如、進歩性欠如の無効理由が解消されるか)について
(1)本件訂正発明4について
ア本件訂正4による訂正後の本件訂正発明4は、本件発明1について、①投与される対象をI型骨粗鬆症患者に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものである。
イ前記3(1)で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であるといえる。
ウ投与される対象をⅠ型骨粗鬆症患者に限定する点について、本件優先日当時、女性における閉経後の最初の15~20年に生ずる、皮質骨と比較して海綿骨の過度かつ不均衡な現象を特徴とする骨粗鬆症をⅠ型骨粗鬆症として分類することが提唱されていた(前記2エ)。このように提唱されていたⅠ型骨粗鬆症は、骨粗鬆症の一種であることは明らかである。他方、本件明細書には、投与対象として、乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者からI型骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切ない。
そうすると、投与対象をⅠ型骨粗鬆症患者に限定することは、乙1発明で想定されていた用途と評価されるべきであり、乙1発明との相違点になるとはいえない。
エまた、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定している点については、前記3で説示したとおり、乙1文献に記載された発明との相違点になるとはいえない。
オそうすると、本件訂正発明4のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如している。よって、本件訂正4によって新規性欠如の無効理由が解消するとはいえない。
(2)本件訂正発明5について
ア本件訂正5による訂正後の本件訂正発明5は、本件発明1について、①「投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものである。
イ 前記3(1)で説示したとおり、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者15を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であるといえる。
ウ投与される対象を「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」とする点について、これは、投与される対象を原発性骨粗鬆症患者のうち、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる者に限定するものと認められる。一般に骨粗鬆症は、骨折のリスクが増大することを問題とする疾患であり、(前記2ア)、骨粗鬆症において想定される骨折部位も橈骨等も含む全身の骨なのであるから、骨粗鬆症患者については、他の部位と並んで、前腕部の骨折について抑制が必要とされているといえるのであって、このことは原発性骨粗鬆症患者についても同様である。そうすると、原発性骨粗鬆症患者であれば、前腕部骨折の抑制が必要とされるといえる。他方で、本件明細書には、投与対象として、乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切なく、投与対象を原発製骨粗鬆症患者に限定することは、乙1発明で想定されていた用途と評価されるべきであることは、前記3で説示したとおりであり、乙1発明との相違点になるとはいえない。
エまた、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定している点については、前記3で説示したとおり、乙1文献に記載された発明との相違点になるとはいえない。
オそうすると、本件訂正発明5のうち、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如している。よって、本件訂正5によって、新規性欠如の無効理由が解消するとはいえない。
第4 結論
以上のとおりであって、本件発明1、2、4はいずれも乙1発明に基づき新規性が欠如し、本件訂正4、5によってもその無効理由は解消されない。よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないため棄却することとし、主文のとおり判決する。
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