<判決紹介>
・平成24年(ワ)第36311号 特許権侵害差止請求事件
・平成27年10月30日判決言渡、東京地方裁判所民事第40部
・原告: メリアル エス アー エス
・被告: フジタ製薬株式会社■コメント
特許3702965(優先日1996/3/29)の特許権者である原告が、被告の「マイフリーガードα犬用」及び「マイフリーガードα猫用」が特許権侵害に当たるとして、製造等の差し止め及び廃棄を求めた訴訟。
一般的に、特許発明の進歩性の判断で効果を評価するにあたり、後出しデータを参酌しても良いかという論点があります。
この点について検討するときに参考になる事例です。
原告は、本件特許発明の有する相乗効果を確認するものとして甲3及び25を提出しました。被告は、以下のように主張しました。
「(2) また,本件各特許発明にいう相乗効果は,原告が新たに証拠として提出した実験でのみ説明されているのであって,本件明細書の発明の詳細な説明には,原告が主張するような相乗効果は記載されていないから,新たに提出した証拠は参酌することができない。
さらには,相乗効果を確認する追加データとして原告により提出された,アラン・マルチオンド作成の1999年(平成11年)9月30日付け「米国特許出願第08/863,692号 37CFR 1.132の宣誓供述書」(甲3。以下「甲3文献」という。)及びヤング・ベテリナリー・リサーチサービス作成の「イヌについた,ネコノミ(Ctenocephalides felis, Bouche)の産卵された卵,羽化中及び既に寄生している成虫に対する,フィプロニルと(S)-メトプレンの併用滴下製剤の効力」と題する文献(甲25。以下「甲25文献」という。)の試験には信頼性がない。まず甲25文献の表3は大きな誤差を含む結果であるし,表3と表4のメトプレン試験区の結果には不自然な点があるということができる。」
裁判所は、以下のように判断しました。「イ 相乗効果の認定についてなお,本件特許の出願後に提示された,甲3文献,甲25文献に記載される効果を,進歩性の判断にあたり,参酌できるかどうかについて,以下検討する。
特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり,明細書に,「発明の効果」について何らの記載がないにもかかわらず,出願人において,出願後に実験結果等を提出して主張又は立証することは,先願主義を採用し,発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので,特段の事情のない限りは,許されないというべきである。また,出願に係る発明の効果は,現行特許法上,明細書の記載要件とはされていないものの,出願に係る発明が従来技術と比較して,進歩性を有するか否かを判断する上で,重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは,解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から,出願に係る発明が,公知技術を基礎として,容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ,上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは,「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのような点を考慮すると,明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について,進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので,特段の事情のない限り許されないというべきである。他方,進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから,明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。
この観点からすると,甲3文献及び甲25文献の各実験結果は,いずれもフィプロニルとメトプレンの併用は,それぞれを単独で使用した場合と比して,薬剤投与をした2か月後に至っても,新たにノミが感染しそのノミが生む卵の孵化及び成虫化の抑制に対し,相乗効果を有することを示している(甲3文献の6項,同8項,表8ないし10。甲25文献の「3.結果」,表1,2,図1,2)。そして,本件明細書には,化合物(A)としてフィプロニル,化合物(B)としてメトプレンを(実施例4),及び,化合物(A)としてフィプロニル,化合物(B)としてピリプロキシフェンを(実施例1ないし3),それぞれ含む組成物を製造したことが実施例をもって具体的に開示されており,フィプロニルとピリプロキシフェンを動物の皮膚に局所塗布した場合については,2か月にわたりノミが検出されず,また,収集した卵に生存能力がなかったことが示されている(摘記事項ヌ)。ピリプロキシフェンとメトプレンはいずれも幼虫ホルモン類似化合物であり(摘記事項カ),本件明細書に好ましい化合物(B)の例として挙げられているものであって(摘記事項キ),同様の作用が期待できるから,フィプロニルとメトプレンを併用した場合についても,フィプロニルとピリプロキシフェンの併用と同様の効果が奏されることが窺える。そうすると,甲3文献及び甲25文献に示される,フィプロニルとメトプレンの併用による相乗効果については,本件明細書の記載から推論できるものであると認められるから,これらを参酌することは許容されると解すべきである。
一方,乙1公報についてみると,試験例をもって具体的に開示されているのは,フィプロニルと,1-(2,6-ジフルオロベンゾイル)-3-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレアとの組み合わせについて,薬剤を環境に配置した場合のゴキブリ及びハエについての防除効果を試験したところ,同薬量でほぼ2倍の防除効果が奏されたとの結果であり(段落【0015】,【0017】),これは相加効果にすぎないものであって,本件各特許発明における,ノミ類及びダニ類から哺乳類を長期間保護するための相乗効果については何ら示されていないし,その示唆があるともいえない。そうすると,本件各特許発明は,公知文献の記載からは予測し得ない格別顕著な効果である相乗効果を奏するものと認められる。」なお、東京地裁は構成要件充足、無効理由なしで侵害と判断しました。 ☆☆
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