「Aであって、B」と「Bであって、且つA」が同じかどうかが判断された事例


<判決紹介>
・平成27(行ケ)10119号 審決取消請求事件
・平成27128日判決言渡、知的財産高等裁判所第2部
・原告: 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
・被告: 株式会社JKスクラロースジャパン

■コメント
原告の特許3938968
に対する無効審決の取消訴訟。争点は明確性要件判断の当否。
特許クレームは下記の通り。
【請求項1】
  茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、該飲料の0.00120.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。
第1訂正クレームは下記の通り。
【請求項1】
  茶,紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%の範囲であって,甘味を呈さない量用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。
これに対して前件判決(平成25(行ケ)10172号)では、甘味を呈さない量が不明確と判断されていた。
そこで原告は、第2訂正の後さらに、下記の通り「Aであって、B」を「Bであって、且つA」とする本件訂正を行なった。
【請求項1
 
ウーロン茶,緑茶,紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に,スク ラロースを,甘味を呈さない範囲の量であって,且つ該飲料の0.00120.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。
そして、原告は下記の主張をした。
「第3 原告の主張
1  
審決は,前件判決当時の第1訂正後の本件発明と本件訂正後の本件発明が実質的に同じ内容を意味することから,前件判決の拘束力が及ぶと判断をしたが,両者は実質的に同一ではない。
1訂正後の本件発明は,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%の範囲内に用いることを前提に,その範囲の中から,甘味を呈さない量という限定を加えているが,本件訂正後の本件発明は,甘味を呈さない範囲の量の範囲内から更に客観的数値である該飲料の0.00120.003重量%のスクラロースを用いるという数値限定を加えたものである。
2  
前件判決は,0.00120.003重量%という数値限定は客観的数値であって明確であるが,その範囲内における「甘味の閾値以下の量」,すなわち,「甘味を呈さない量」という概念は,「0.00120.003重量%」との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であることから,請求項全体としては明確性に欠けると判断した。すなわち,第1訂正後の本件発明は,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%の範囲内で用いることを前提にしつつ,その範囲の中から,「甘味を呈さない量」という限定を加えている点につき,甘味の閾値が0.00120.003重量%の範囲内に存在する場合に,「0.00120.003重量%の範囲」とその範囲の内側にある「甘味を呈さない量」の境界線が不明確であると判断した。
しかしながら,本件訂正後の本件発明は,権利範囲については,0.00120.003重量%という客観的な数値をもって表現しており,明確にしている。すなわち,0.00120.003重量%という数値は甘味を呈さないことを前提とした上での数値限定であるため,スクラロースを用いる最大量である0.003重量%において,飲料が甘味を呈する場合は,本件訂正後の本件発明の範囲から明確に除外されている。この場合,甘味の閾値(甘味を感じることのできる最小値)を決定する必要はない。したがって,本件訂正後の本件発明は,甘味の閾値が0.00120.003重量%の範囲内に存在する場合がなく,『「甘味を呈さない量」とは,0.00120.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確である』と判示された前件判決の拘束力が及ばない。」
これに対し、裁判所は下記の通り、「
Aであって、B」と「Bであって、且つA」は同じものを指すという主旨の判断をした。 請求棄却。 ☆
2 原告の主張に対する判断
(1)
原告は,第1訂正後の本件発明では,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%の範囲内に用いることを前提に,その範囲の中から,甘味を呈さない量という限定を加えているため,0.00120.003重量%の範囲内に甘味の閾値が存在する場合が含まれることを前提とするものであり,甘味閾値の具体的な数値を正確に測定する必要があるのに対し,本件訂正後の本件発明では,甘味を呈さない範囲の量の範囲内で,客観的数値である該飲料の0.00120.003重量%のスクラロースを用いるという数値限定を加えているため,0.00120.003重量%は甘味を呈さないこと前提とするものであり,スクラロースを用いる最大量である0.003重量%において,飲料が甘味を呈する場合は,明確に排除されているから,具体的な甘味閾値を求める必要はないとして,第1訂正後の本件発明と本件訂正後の本件発明は,実質的に同一でないと主張する。
(2)
しかしながら,第1訂正後の本件発明と本件訂正後の本件発明では,いずれも「であって」という用語によって,前後の発明特定事項が接続されているが,「であって」における「て」は,対句的に語句を並べ,対等,並列の関係で前後を結びつける作用を有する接続助詞であるから,両発明は,いずれも「該飲料の0.00120.003重量%の範囲」であること(条件A),及び「甘味を呈さない量」であること(条件B)という2つの条件を共に満たしていることを要求していると解される。したがって,両発明では,ただ条件の記載順序が異なるにすぎない。そして,記載順序の違いは,2つの条件を共に満たす範囲に影響を与えるものではない。
原告の主張は,発明特定事項が「AかつB」と記載された場合には,条件Aを満たす集合の中に条件Bを満たす集合が包含されていることが前提となるが,逆に「BかつA」と記載された場合には,条件Bを満たす集合の中に条件Aを満たす集合が包含されていることが前提となるというものである。しかしながら,各集合に属するための条件が相互に独立した項目であれば,ある特定の条件を満たす集合は,他の条件を満たす集合から何ら影響を受けずに,当該特定条件を満たす集合の大きさや帰属する要素を規律するはずである。そして,複数の条件を満たす集合体の大きさや帰属する要素は,いずれの条件を先に検討しても,それぞれの重なり合う範囲となるのであり,同じ結果になるはずである。したがって,「AかつB」と「BかつA」は同じものを指すのであって,仮に条件Aを満たす集合の中に条件Bを満たす集合全体が包含される関係にあるのであれば,「AかつB」も「BかつA」も条件Bを満たす集合を指すことになり,条件Bを満たす集合の中に条件Aを満たす集合が包含される関係にはならない。前記1のとおり,本件発明において,「該飲料の0.00120.003重量%の範囲」であることは,当該飲料の重量によって計算上算定される値であり,かつ,「甘味を呈さない量」であることは,ヒトの味覚によって検査される値であり,それぞれ独立した条件であり,一方の条件が論理的に当然に他方の条件に影響するものではない。
したがって,原告の主張は,前提において誤りであり,採用できない。」

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