<炭酸ランタンOD錠後発品の特許侵害訴訟> インカメラ手続きが行われた上で、文書提出命令の申立てが却下された事例

<判決紹介>
・平成30年(ワ)第28391 特許権侵害差止請求事件
・令和元年612日判決言渡
・東京地方裁判所民事第40 佐藤達文 三井大有 今野智紀
・原告:バイエル薬品株式会社
・被告:コーアイセイ株式会社、日本ケミファ株式会社、扶桑薬品工業株式会社、日本ジェネリック株式会社、コーアバイオテックベイ株式会社
・特許6093829
・発明の名称:ランタン化合物を含む医薬組成物

■コメント
少し前の判決です。
特許6093829の特許権者である原告(バイエル薬品)が、被告ら(コーアイセイ等)が炭酸ランタンOD錠(後発品)を製造・販売等する行為が原告の特許権を侵害すると主張し、製造等の差し止め及び廃棄を求めた事案です。
先発品はホスレノールOD錠(一般名:炭酸ランタン水和物)です。
本件特許の訂正後の請求項6は以下の通りです(構成要件に分説ずみ)。
「【訂正後請求項6
A  
唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって,
B  
崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が7090質量%で炭酸ランタ ン又はその薬学的に許容される塩を含有し,
前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.612質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は,
D  
医薬組成物。」
後発品の添付文書には、添加剤が以下のように記載されています。
「(ウ) 添加物
軽質無水ケイ酸,ステアリン酸マグネシウム,タルク,その他3成分
原告は、上記「その他3成分」が構成要件Cのクロスポビドンを含むことを立証するために、文書提出命令の申立てをしましたが、裁判所はインカメラ手続きを行った結果、却下しました。
さらに、裁判所は、後発品がクロスポビドンを含有すること等の証拠がないとして、後発品は本件訂正発明の技術的範囲に属さないと判断しました。
裁判所の判断は以下の通りです。
判決——————————————————————————————-
6 原告の書類提出命令申立てとその却下決定
原告は,平成31221日,被告コーアイセイを相手方として,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため,本件製剤1に関する平成30215日付け医薬品製造販売承認書に記載されている「成分及び分量又は本質」に係る部分について,特許法1051項に基づく書類提出命令の申立てをした。
当裁判所は,同年411日,同条2項に基づくインカメラ手続を行い被告 コーアイセイから対象書類の提示を受けた上,同書類には本件製剤1にクロスポビドンが含まれるかどうかや,クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に関する情報が記載されているが,本件製剤1の組成物又は含有率は本件訂正発明に規定するものと異なっている一方,同情報は被告コーアイセイにとって秘密性の高い重要な技術的情報であると認められるから,被告コーアイセイには 書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して,同申立てを却下した。
・・・
当裁判所の判断
争点1(本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属するか)について
本件訂正発明の構成要件Cは,「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.612質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は,」というものであるところ,原告は,本件各製剤が構成要件Cを充足すると主張する。
しかし,本件各製剤が,①崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること,②その医薬組成物中の含有率が5.612質量%であること,③同崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤でないことについては,これを認めるに足りる証拠がない。
原告は,本件各製剤は原告製剤の後発医薬品であることや,原告による本件製剤1の分析によっても,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られていないことなども指摘するが,本件各製剤が原告製剤の後発医薬品であるとしても,そのことから直ちに本件各製剤が構成要件Cを充足するということはできず,また,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られていないことは,むしろ,同製剤が構成要件Cに規定された含有率のクロスポビドンを含有すると認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことを示すものである。
したがって,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めることはできない。
よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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