<知財高裁/セレコキシブ特許の審取訴訟> 数値範囲全体にわたり、セレコキシブの生物学的利用能が改善されると認識できないとして、サポート要件違反と判断された事例


<判決紹介>

・平成30年(行ケ)第10110号 審決取消請求事件(第1事件)

・同年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件(第2事件)

・同年(行ケ)第10155号 審決取消請求事件(第3事件)

・令和元年1114日判決言渡 

・知的財産高等裁判所第4部 大鷹一郎 古河謙一 岡山忠広

・原告:東和薬品株式会社

・原告:日本ケミファ株式会社

・原告:ヘキサル・アクチェンゲゼルシャフト

・被告:ジー.ディー.サール,リミテッド,ライアビリティ,カンパニー

・特許3563036

・発明の名称:セレコキシブ組成物

 

 

コメント

セレコキシブに関する特許の、無効審判の審決取消訴訟の紹介です。

後発品メーカー vs 新薬メーカーです。

 

経緯は以下のとおりです。

 

・平成101130日:ジー.ディー.が基礎出願

・平成16611日:特許登録(特許3563036

・平成28930日:東和薬品が無効審判請求(無効2016-800112

・後日:日本ケミファ等が請求人側へ参加

・平成3057日:訂正

・平成30626日:有効審決(請求項1~57~19

・平成3082日:東和薬品が審決取消訴訟提起

・後日:日本ケミファとヘキサルが審決取消訴訟提起

・令和元年1114日:判決いまココ

 

 

先発品はセレコックス錠100mg200mg(一般名:セレコキシブ)で、現時点で後発品はありません。

 

本件特許の請求項1は以下の通りです。

 

「【請求項1】(訂正)

一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって,粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90200μm未満である粒子サイズの分布を有する製薬組成物。」

 

 

原告が主張した無効理由は、明確性、実施可能要件、サポート要件、新規性欠如、進歩性欠如です。

 

今回裁判所は、サポート要件のみ判断しました。

裁判所は、

「本件発明1に含まれる「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90200μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから,本件発明1は,サポート要件に適合するものと認めることはできない。

と判断しました。

 

詳細は以下の通りです。

 

 

判決--------------------------------------------------------------------------------

当裁判所の判断

本件明細書の記載事項について

・・・

(2)前記(1)の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次のような開示があることが認められる。

ア シクロオキシゲナーゼ-2の阻害剤であるセレコキシブは,水溶性媒体には異常なほど溶解せず,例えば,未調合のセレコキシブがカプセル状態で経口投与された場合,胃腸管で急速に吸収されるために,容易には溶解せず,分解もしない,また,長く凝集した針を形成する傾向のある結晶形態を有する未調合のセレコキシブは,通常,錠剤成形ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になり,セレコキシブの結晶は,他の物質とブレンドさせたときでも,他の物質と分離する傾向があり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する非均一なブレンド組成物となり,所望のブレンド均一性を有するセレコキシブ含有の製薬成分を調製することは難しいなどの問題があったため,従来,未調合のセレコキシブに対して,生物学的利用能などが改善された経口運搬可能なセレコキシブの調合の必要性が存在し,未調合セレコキシブで可能であるよりも,急速に効き目のある薬物速度論を示す調合を提供することは,特に有益であった(【0003】,【0006】,【0008】,【0009】)。

 

イ 「本発明」は,一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって,各単位量は,一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形剤と密に混合した約10mgから約1000mgの量の微粒子セレコキシブを含み,粒子の最長の大きさで,D90が約200μm以下であるように(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい),セレコキシブ一次粒子サイズの分布を有する構成を有するものである(【0011】,【0013】)。

 

本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術について

・・・

2)前記(1)の記載事項を総合すると,本件優先日当時,①粉砕によって薬物の粒子径を小さくし,比表面積(有効表面積)を増大させることにより,薬物の溶出が改善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ性が劣る場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表面積が小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなることがあること,②疎水性の難溶性物質であっても,界面活性剤が存在すると,微粒子は凝集せずに均一に溶液中に分散され,粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることは,周知又は技術常識であったものと認められる。

 

取消理由4(サポート要件の判断の誤り)について

原告らは,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から,本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90n>が200μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できるものではないから,本件発明1は,サポート要件に適合せず,また,本件発明2ないし57ないし9も,同様に,サポート要件に適合しないから,本件発明15719は,サポート要件に適合するとした本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。

 

1)本件発明1のサポート要件の適合性について

  特許法3661号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであり,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止することにあるものと解される。

そうすると,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは,当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。これを本件発明1についてみると,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1は,「一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシブ」を含む「固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」に関する発明であって,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90200μm未満である粒子サイズの分布を有する」ことを特徴とするものであるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。そして,前記12)の本件明細書の開示事項によれば,本件発明1は,未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することを課題とするものであると認められる。

 

イ(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には,セレコキシブの生物学的利用能に関し,「発明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μm以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下であるように,セレコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子サイズの減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」(【0022】),「カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズの減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。したがって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10μmであり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズを有する。」(【0124】),「湿式顆粒化過程にて,(必要ならば,一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)セレコキシブは先ず粉砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能であるが,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液体窒素を利用してセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要な温度へ加熱させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。前記にて議論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さくすることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要である。」(【0135】)との記載がある。これらの記載は,未調合のセレコキシブを粉砕し,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には,セレコキシブの生物学的利用能が改善されること,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものといえる。

 

一方で,①本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90200μm未満である粒子サイズの分布を有する」構成とする具体的な方法を規定した記載はなく,本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕されたものに限定する旨の記載もないこと,かえって,本件明細書の【0135】には,セレコキシブの微細化に関し,「さまざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能である」との記載があること,②本件明細書の【0008】には「セレコキシブは,水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば,カプセル形態で経口投与させた場合,未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために,容易には溶解せず,分散もしない。加えて,長く凝集した針を形成する傾向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは,通常,錠剤成形ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になる。他の物質とブレンドさせたときでも,セレコキシブの結晶は,他の物質から分離する傾向があり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組成物になる。」との記載があること,③本件優先日当時,粉砕によって薬物の粒子径を小さくし,比表面積(有効表面積)を増大させることにより,薬物の溶出が改善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ性が劣る場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表面積が小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなることがあることは周知又は技術常識であったことに照らすと,難溶性薬物であるセレコキシブについて,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」の構成とすることにより,セレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理解することはできない。

 

また,本件明細書の記載を全体としてみても,粒子の最大長におけるセレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について具体的に説明した記載はない。

しかるところ,「D90」は,粒子の累積個数が90%に達したときの粒子径の値をいうものであり,本件発明1の「D90200μm未満である」とは,200μm以上の粒子の割合が10%を超えないように限定することを意味するものであるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は,化合物によって様々な形態を採ること(甲イ72)に照らすと,200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば,90%の粒子の粒度分布がどのようなものであっても,生物学的利用能が改善されるとものと理解することはできない。

 

以上によれば,本件明細書の【0022】,【0124】及び【0135】の上記記載から,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には,その数値範囲全体にわたり,セレコキシブの生物学的利用能が改善されると認識することはできない。

 

(イ)この点に関し被告は,①本件発明1の課題解決のメカニズムは,セレコキシブの粒子の最大長におけるD90200μm未満とされることにより,元来凝集しやすい性質のセレコキシブの凝集性が減少し,その結果セレコキシブ粒子の有効表面積が増大することにより溶解速度が速くなり,セレコキシブの生物学的利用能が改善するものである,②ピンミルを利用した場合には,セレコキシブは長い針状から微小化した均一な粒子になるのに対して,エアージェットミルを利用した場合には長い針状の結晶が残存するためピンミルを利用して粉砕した場合と比較して,液体エネルギーミルで粉砕した場合は凝集力が改善されにくいこと(本件明細書の【0024】)から,単にセレコキシブの粒子を微細化して平均粒子径を小さくすればよいというのではなく,微細化した粒子中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要であり,その割合が限定されなければならないということを見出し,本件発明1では,微細化した粒子中に残存する粒子の最大長のD90を基準として用いることとした,③セレコキシブ粒子の最大長におけるD90200μm未満である場合に,生物学的利用能が改善されるメカニズムが,本件明細書の記載(【0167】,【0172】ないし【0177】,【0183】ないし【0186】,【0205】,表11-2C,表11-2D)から確認できる,④平均粒子サイズが1μm1020μmになるように調製された粒子のD90200μm未満となることは,別紙2-1及び別紙2-2の粒子分布図から理解できる旨主張する。

 

D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について説明した記載はない。

また,前記(ア)で述べたように,本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミル」(「ピンミリング」)を利用して粉砕されたものに限定されるものではないから,「ピンミル」を利用することを前提として,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90200μm未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムを把握することはできない。

さらに,被告は,別紙2-1及び別紙2-2について,D90200μmの平均粒子径は,別紙2-1の山型の分布図のおよそ中央の値(青線)となり,平均粒子サイズ(青線)はその中央値であるおよそ100μmとなる,平均粒子サイズが1μm1020μmの場合に,別紙2-2のとおり,山型の分布が全体的に粒子径の小さい(左)方向にスライドすることになるので,これらのD90200μmより小さい値となる旨述べるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は,化合物によって様々な形態をとること(甲イ72)は,前記(ア)のとおりであって,例えば,甲イ72の図⑧(「D90●●●●●μm」。別紙3)のような粒子径分布をとる場合があることに照らすと,D90200μm未満の場合の粒度分布は,必ずしも被告の主張するような粒度分布になるものとはいえない。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

 

(ウ)また,被告は,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90200μm未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムは,本件明細書の記載から理解できるものであり,この理解に誤りがないことは,未粉砕のセレコキシブと比較して,D90200μmのセレコキシブの生物学的利用能が改善することを示す追加の試験結果(乙10)からも確認することができる旨主張する。

そこで検討するに,乙10には,未粉砕のセレコキシブ(D90=669μm)を含有するセレコキシブカプセル(以下「未粉砕カプセル」という。)とピンミルにより粉砕されて微小化したセレコキシブ(D90=196μm)を含有するセレコキシブカプセル(セレコキシブ25%,ラウリル硫酸ナトリウム2%,「アビセルPH-10173%を含有するもの。以下「196μmカプセル」という。)を「ビーグルイヌ」に投与して,生物学的利用能を測定したこと,その結果,生物学的利用能は,未粉砕カプセルが16.1%であったのに対し,196μmカプセルは32.1%であり,196μmカプセルが2.0倍に向上した旨の記載がある。

一方で,本件明細書には,「セレコキシブは水溶液にかなり溶解しにくい。したがって,本発明の製薬組成物は,任意であるが,好ましくは,キャリア材料として,一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容な加湿剤を含む。かかる加湿剤は,水と親和性があるようにセレコキシブを維持させるように選択することが好ましく,その状態が製薬組成物の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。」(【0075】),「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在するならば,ラウリル硫酸ナトリウムは,組成物の全重量の対して,約0.25%から約7%,好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%の量を含む。」(【0076】)との記載があること,疎水性の難溶性物質であっても,界面活性剤が存在すると,微粒子は凝集せずに均一に溶液中に分散され,粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることは,本件優先日当時,周知又は技術常識であったこと(前記22))に照らすと,196μmカプセルに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが,196μmカプセルの生物学的利用能の試験結果に影響した可能性が高いものと認められる。

 

また,196μmカプセルを調合するに当たり,ピンミルで粉砕し微小化しているが,前記(ア)で述べたように,本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミル」を利用して粉砕されたものに限定されるものではない。

したがって,乙1の試験結果から,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90200μm未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムを認識することはできないから,被告の上記主張は採用することができない。

 

ウ(ア)本件明細書には,「例n lang=”EN-US”>11」として「犬モデルでの生物学的利用能」の実験結果及び「例11-2」として「犬モデルでの調合の生物学的利用能」の実験結果の記載(【0170】ないし【0177】,表11-111-2A11-2B11-2C11-2D)がある。例11及び例11-2には,メス犬及びオス犬をモデルとして,セレコキシブの静脈注射による投与,セレコキシブの経口溶液形態の投与,経口カプセルによる未粉砕,未調合のセレコキシブの投与により,それぞれの生物学的利用能を測定したこと,「組成物A」ないし「組成物F」についての生物学的利用能について測定した結果,メス犬については,「組成物A」(微粉化したセレコキシブ,ラウリル硫酸ナトリウム,「アビセル101」を含むカプセル)は31.2%,「組成物B」(微粉化したセレコキシブ,ラウリル硫酸ナトリウム,「アビセル101」,リン酸三ナトリウム12水和物(Na3PO412H2O)を含むカプセル)は24.9%,「組成物F」(未粉砕,未調合のセレコキシブ)は16.9%であったこと(表11-2C),オス犬については,「組成物A」は49.4%,「組成物B」は54.2%,「組成物F」は16.9%であったこと(表11-2D)であることの記載がある。これらの記載は,微粉化したセレコキシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」の生物学的利用能は,未粉砕,未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学的利用能より高いことを示している。

しかるところ,本件明細書の【0172】には,「組成物A」は,調合する前にセレコキシブを「微粉化(平均粒子サイズ10乃至20μm)」させたことが記載されているが,セレコキシブのD90粒子サイズについての明示の記載はないところ,0124】に「例えば,例11に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善される。」とのの記載があることを参酌すると,「組成物A」に含まれるセレコキシブのD90粒子サイズは,約30μmであると推認される。また,「組成物B」についても,これと同様である。

一方で,「組成物A」及び「組成物B」は,乾燥重量を基礎とした重量割合で,それぞれ2%及び25%のラウリル硫酸ナトリウムが含まれていること(表11-2A)からすると,前記イ(ウ)で述べたのと同様に,本件明細書の【0075】及び【0076】の記載及び本件優先日当時の技術常識(前記22))に照らすと,「組成物A」及び「組成物B」に加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが,生物学的利用能の実験結果に影響した可能性が高いものと認められる。

そうすると,セレコキシブ粒子のD90が約30μmである「組成物A」及び「組成物B」の生物学的利用能の実験結果から,本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90200μm未満」の数値範囲の全体にわたり,未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識することはできない。

 

(イ)これに対し被告は,本件明細書には,表11-2Aの「組成物A」にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれているが,「組成物A」で評価しているのはセレコキシブの微粉化の効果であり,「組成物B」で評価しているのはラウリル硫酸ナトリウムによる湿潤剤増加の効果であることが明記されていること(【0172】),25%のラウリル硫酸ナトリウムを含む「組成物B」の生物学的利用能は,ラウリル硫酸ナトリウムを2%しか含まない「組成物A」と比較して,低い(メス犬につき表11-2C)か同程度(オス犬につき表11-2D)であることからすると,生物学的利用能の改善効果は,ラウリル硫酸ナトリウムによるものではなく,セレコキシブの微粉化によりもたらされていることを理解できる旨主張する。

 

しかしながら,本件明細書には,好ましい加湿剤とされるラウリル硫酸ナトリウムは,組成物の全重量に対して,約0.25%から約7%,好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%の量を含むと記載されていること(【0076】)に照らすと,「組成物A」は,好ましい量とされる2%のラウリル硫酸ナトリウムを含むのに対し,「組成物B」には好ましいとされる量をはるかに超える25%ものラウリル硫酸ナトリウムが含むものであるから,「組成物lang=”EN-US”>B」が「組成物A」と比較して生物学的利用能が同等かやや低い結果であったからといって,生物学的利用能の改善効果は,ラウリル硫酸ナトリウムによるものではなく,セレコキシブの微粉化によりもたらされているものと認識することはできない。

したがって,被告の上記主張は,理由がない。

 

エ(ア)本件明細書には,「例13」として,懸濁液と連続した小さなスクリーンサイズ(#14#20#40)を備えた振動ミルを介して何回も粉砕したセレコキシブ粒子のD90粒子サイズが37μm以下のカプセルを用いた相対的生物学的利用能(AUC0-48))の実験結果の記載(【0184】ないし【0186,13B)がある。

13には,D90粒子サイズが37μm以下の粒子サイズのセレコキシブを含む100mg単位投与量カプセルと14C‐セレコキシブの懸濁液プロファイルを用いて,「健康なオス」を被験者として実験した結果,「AUC0-48)にて測定した生物学的利用能」は,D90の粒子サイズが約37μm以下のセレコキシブ粒子を含む100mg単位量のカプセルは,セレコキシブを含む懸濁液と同等であった旨の記載(【0185】,【0186】)がある。

 

しかしながら,例13には,懸濁液に含まれるセレコキシブの粒子サイズの記載はなく,その粒子サイズは不明であることに照らすと,セレコキシブ粒子のD90が約37μm以下である上記実験結果から,本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90200μm未満」の数値範囲の全体にわたり,未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識することはできない。

(イ)これに対し被告は,本件明細書の例13において,同一の被験者に例11-2と同様の方法で調製されたと考えられる懸濁液(粒子サイズは約1μm径)とD90粒子サイズが約37μm以下であるカプセル剤が投与されたときにそれぞれのAUC0-48)が同等であったことが確認されており,D90の粒子サイズが37μmのときですら1μmと同様の効果を奏することから,当業者は,D90の粒子サイズが37μm以上のセレコキシブであっても,420μmより大きいサイズの粒子サイズが含まれる未粉砕のセレコキシブの生物学的利用能と比較すると改善された生物学的利用能を奏することは高い蓋然性をもって予測することができる旨主張する。

しかしながら,例11の懸濁液は,「(2)粒子が顕微鏡で評価した際に約1μm径になるまで,ポリソルベート80とポリビニルピロリドンのスラリーにて,薬をボールミルさせて,懸濁液として調製した」もの(【0173】)であるのに対し,例13の懸濁液は,「5%のポリソルベート80を含むエタノールにセレコキシブを溶解させて調製し」たもの(【0185】)であって,懸濁液の調製方法が異なるから,例13の懸濁液の粒子才津は「約1μm径」であるとの被告の主張は,その前提を欠くものである。

 

また,本件明細書には,例13で調製されたカプセルのセレコキシブ粒子は,「セレコキシブ,ラクトース及びポリビニルピロリドンを遊星型ミキサーボールにて混合し,水を用いて湿式顆粒化させた」もの(【0184】)であるとの記載があること,「ポリビニルピロリドンは,セレコキシブ調合の顆粒化のため,セレコキシブパウダーブレンド及び他の賦形剤に凝集性を与えるために利用される,好ましい結着剤である。」,「ポリビニルピロリドンにより,パウダーブレンドに凝集力が付与され,必要な結合が容易に起こり,湿式顆粒化中に顆粒を形成させる。」,「ポリビニルピロリドンを含む本発明の組成物は,特に湿式顆粒化により調製され,他の組成物に対して相対的に改善された生物学的利用能を示すことが判明した。」(【0074】)との記載があることに照らすと,例13で調製されたカプセルのセレコキシブ粒子の生物学的利用能は,ポリビニルピロリドンを利用した湿式顆粒化により改善された蓋然性があるものと認識することができる。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

 

  次に,本件明細書の「例15」には,「100mg投与量のカプセルの調製」のための粉砕方法として,「粒子サイズを比較的狭い範囲(D9030μm若しくはそれ以下)内で変化し」(【

このほか,本件明細書には,セレコキシブ粒子のD90の粒子サイズと生物学的利用能に関する実験結果の開示はない。

 

  以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から,当業者が,本件発明1に含まれる「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90200μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから,本件発明1は,サポート要件に適合するものと認めることはできない。

これと異なる本件審決の判断は誤りである。

・・・

 

結論

以上によれば,原告ら主張の取消事由4は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。

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判決文によると、

①請求項1に「D90200μm以下」の具体的な方法の規定がなく、「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕されたものに限定されていないこと、かえって、【0135】に「さまざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能である」との記載があること、

②【0008】にセレコキシブが水溶性媒体に異常なほど溶解しないこと、非均一なブレンド組成物になる等の記載があること、

③難溶性薬物は粒子径を小さくすると凝集が起こりやすい等の技術常識があったこと、

が考慮され、

「「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」の構成とすることにより、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理解することはできない。」

と判断されています。

 

また、

A)「本件明細書の記載を全体としてみても,粒子の最大長におけるセレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について具体的に説明した記載はない。」

とも判断されています。

 

①については、一般的な他の製剤特許でも似たことがありそうなので、なかなか危険な論理構成だなと思いました。

 

A)の観点は被告にとってつらい(弱い)ところです。どうやら、「D90200μm以下」の範囲内と外での比較結果が明細書に明確に記載されていないようです(【0022】等に好ましい範囲としての記載はあります)。D90は出願時の請求項1に記載されていなかった構成なので、もしかしたら明細書作成時にはそれほど重視されていなかったパラメータだったのかもしれません。

なお、被告は試験結果を追加提出しましたが、ラウリル硫酸Naが影響している可能性と、①の観点が考慮され、主張は認められませんでした。もし、ラウリル硫酸Naを使用せず、且つピンミリング以外の方法で粉砕した試験結果を提出していたらどうなったのかは気になるところです。

 

数値限定を独立クレームにクレームアップすることって実務的に結構ありますが、この判決の考え方が適応されてしまわないか要検討ですね。pan>

 

また、裁判所は明細書の例11に関して、加湿剤のラウリル酸Naが生物学的利用能に影響した可能性が高いとして、例11は数値限定のサポートの根拠にならないと判断しました。

比較実験は、「添加剤の影響も考慮して」厳密に評価すべきということを意味しており、重要な観点だと思います。

 

無効理由の論理構成を考えるときには、この判決の考え方が使えないか検討したいなと思える判決でした。


判決文はこちら

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