<知財高裁/テリボン特許の審決取消訴訟> 低リスク患者の症例数が不足しているため、高リスク患者の顕著な効果が認められなかった事例

 判決紹介 

・令和2年(行ケ)第10038号 審決取消請求事件
・令和3年9月28日判決言渡
・知的財産高等裁判所第4部 菅野雅之 本吉弘行 中村恭
・原告:沢井製薬株式会社
・被告:旭化成ファーマ株式会社
・特許6301524
・発明の名称:骨粗鬆症治療剤ないし予防剤

 コメント 

テリボン®皮下注用56.5μg(一般名:テリパラチド酢酸塩)(以下、テリボン)の特許6301524に関する審決取消訴訟を紹介します。
被告の旭化成ファーマは、特許6301524の特許権者で、テリボンを製造・販売しています。
原告の沢井製薬は、後発品メーカーで、特許6301524に対して無効審判を請求していましたが、特許庁が特許維持審決をしたため、今回、審決取消訴訟を提起しました。
本件特許の訂正後の請求項1は以下の通りです。
【請求項1】
 1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者であり,かつ,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がL-アスパラギン酸カルシウム,アルファカルシドール,及び塩酸ラロキシフェンからなる群より選択される1つの薬剤である骨粗鬆症患者を対象とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である
原告が主張する取消事由は以下の通りです。
⑴ 本件訂正に関する判断の誤り(取消事由1)
⑵ 明確性要件に関する判断の誤り(取消事由2)
⑶ 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由3)
⑷ サポート要件に関する判断の誤り(取消事由4)
進歩性に関する判断の誤り(取消事由5)
裁判所は、取消事由1、5について判断しました。
取消事由1の訂正に関して、裁判所は審決の判断に誤りはないと判断しました。
取消事由5の進歩性に関しては、効果の議論の中で、請求項1の(1)~(3)の3条件に基づく効果(効果①)と、下線部の服薬暦に基づく効果(効果②)について判断しました。
以下に、効果①に関する、原告の主張と裁判所の判断の抜粋を記載します。
判決
第3 当事者の主張
・・・
5 取消事由5(進歩性に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
・・・
イ 効果について
(ア)本件明細書には,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴を有する骨粗鬆症患者の骨折発生率について,【0119】ないし【0122】,【表21】ないし【表23】の記載しかない。
(イ)a 本件明細書は,骨折抑制効果が本件3条件により奏するとしながら,200単位投与群について,本件3条件を全て満たす患者と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者とを比較した試験結果は何ら示していない。仮に,本件3条件を満たした場合に100単位の投与によってPTHの骨折抑制効果を強く発現させることができるとしても,本件訂正発明のように用法・用量を限定したところに格別の効果を奏する特殊な患者群を見出したという発明において,当該用法・用量を変更しても,その特殊な患者群において変更前の用法・用量と同様に格別な効果を奏するなどという技術常識はなく,また,そのような推論ができる根拠はない。実際,本件明細書に記載の実施例1の結果は,100単位投与群では,本件3条件の全てを満たすとする高リスク患者の骨折発生率が6%(=3÷52,【表2】及び【表8】),本件3条件を満たさないとする低リスク患者の骨折発生率が9%であり(=1÷11,【表3】及び【表9】),高リスク患者の方が低リスク患者よりも骨折発生率が低いが,5単位投与群では,高リスク患者の骨折発生率が28%(=18/64,【表2】及び【表8】),低リスク患者の骨折発生率が10%(=1÷10,【表3】及び【表9】)であり,低リスク患者の方が高リスク患者よりも骨折発生率が低くなっている。
b 本件訂正発明が対象とする「高リスク患者」とは,本件条件(1)と,「既存骨折がある」(本件条件(2))と,本件条件(3)の全てを満たす者であるところ(【請求項1】),本件明細書の実施例の「高リスク患者(高リスク者)」は,本件条件(1)と,「既存の椎体骨折がある」と,本件条件(3)の全てを満たす患者としており(本件明細書【0079】),「既存の椎体骨折がある」は「既存骨折がある」(本件条件(2))に含まれるから,実施例の「高リスク者」は,本件3条件を満たす者である。
他方,実施例では,「高リスク者」以外の者を全て「低リスク者」としているから(本件明細書【0079】,【0080】),本件条件(1)と,「既存の『非』椎体骨折がある」と,本件条件(3)の全てを満たす患者は,実施例においては「低リスク者」であるが,本件3条件は満たしていることになり,本件訂正発明は実施例にいう「低リスク者」をも含んでいる。そして,骨粗鬆症患者では,男女とも,部位にかかわらず,既存骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になり,特に,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折は約4倍に高まるとされていて(甲88),本件条件(2)の「既存の骨折がある」と実施例の「既存の椎体骨折がある」とでは,骨折リスクが約2倍相違する。そうすると,骨折リスクの高い「既存の椎体骨折がある」患者を対象とした実施例1の結果をもってしては,それより骨折のリスクの低い「既存の『非』椎体骨折がある」患者をも含む本件3条件が特殊な患者群を画することの根拠となり得ない。
また,低リスク患者の類型は7通り(3種の条件を組み合わせた8通りの場合から,全ての条件を満たす場合―すなわち,高リスク患者―を控除する。)存在するが,実施例1の「低リスク患者」かつ「100単位投与群」の例数は,わずか11例しかなく,7通りの組合せに対しては少なすぎ,その結果をもってしては,確率の低い事象が偶然生じた可能性を排除することができず,そのような試験結果に信頼性を認めることは困難である。また,実施例1の100単位投与群における低リスク患者の患者背景は,全員が年齢65歳未満で本件条件(1)を満たさないが,本件条件(2)及び本件条件(3)のいずれも満たす者とうかがわれ(本件明細書【表3】),実施例1の「低リスク患者」かつ「100単位投与群」の結果は,本件条件(1)のみを満たさない患者群についての結果であって,ここから低リスク患者全般について客観的な評価を導くことは困難である。
・・・
第4 当裁判所の判断
・・・
3 取消事由5(進歩性に関する判断の誤り)の有無について
・・・
オ 効果についての検討
前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告は,前記第3の5⑵イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果①」という。),②本件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効果②」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。
以下,これらの効果について検討する。
(ア)効果①について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから,当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そうすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果①の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,効果①を確認するためには,高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があるが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リスク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リスク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにとどまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表11】)。そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが,症例数が不足していることによることを否定できない。このように,低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して,前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。
したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
以上によれば,効果①は,本件明細書の記載に基づかないものというべきである
c 被告は,効果①を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することができず,また,これを推認することもできない以上,効果①は対外的に開示されていないものであるから,上記実験成績証明書を採用して,効果①を認めることは相当でない。
仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には,本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいずれかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群ではコントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者については,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認されることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTHの骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
d 以上によれば,いずれにしても効果①を認めることはできないから,その他の点について判断するまでもなく,効果①を予測することのできない顕著な効果という余地はない。
(イ)効果②について
前記ア(ウ)のとおり,効果②は本件明細書からうかがうことのできない効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれについて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラセボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示されていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そのようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。
以上によれば,いずれにせよ,効果②を認めることはできないし,ましてや,予測することのできない顕著な効果が認められるなどといった余地はない。
カ 以上のとおりであるから,相違点1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たものである。
⑶ 小括
前記⑵のとおり,相違点1が容易に想到できないと認定した本件審決の判断には誤りがあるから,相違点1が容易に想到できないことから相違点2について検討するまでもなく本件発明1の進歩性を認めた本件審決の判断にも,誤りがあり,取消事由5は,理由がある。
4 結論
以上のとおり,取消事由5には理由があるから,その他の点について判断するまでもなく,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
ということで、裁判所はおよそ以下のように判断しました。
・症例数が不足しているため、高リスク患者(3条件満たす)への効果が、低リスク患者(3条件満たさない)への効果よりも高いことが明細書から理解できない。
・効果①は,本件明細書の記載に基づかない。
・実験成績証明書を採用して,効果①を認めることは相当でない。
・効果①を認めることはできないから、予測することのできない顕著な効果も認められない。
・進歩性を認めた審決の判断に誤りがある。
今回のように予想外の顕著な効果が否定されるリスクを考慮すると、比較実験は厳密に行って、明細書に記載してくのは重要ですね。
なお、この訴訟以外にも、本件特許と類似の請求項の特許に関して、いくつかの訴訟が提起されています。本ブログでは紹介しませんが、Fubuki先生のブログ(リンク)で詳しく解説されています。
また、請求項1の「服薬歴」、「3条件」はテリボンの添付文書等に直接明記されていないようです。そうすると、仮に本件特許が有効で侵害訴訟が提起されていた場合には、後発品は請求項1の技術的範囲に含まれるのか、という論点がでてきます。
ラベル化権(ラベル論)に基づいてバッサリいかれるのか、それとも投与される患者中の「服薬歴」及び「3条件」を満たす患者の割合が考慮されるのか。
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