・同年(ワ)第22291号 特許権侵害差止請求事件(第2事件)
・令和3年11月30日判決言渡
・東京地方裁判所民事第47部 田中孝一 小口五大 鈴木美智子
・第1・第2事件原告:ワーナー-ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー
・第1事件被告:日新製薬株式会社
・第2事件被告:Meiji Seikaファルマ株式会社
・特許3693258
・発明の名称:イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤
ワーナー-ランバート(原告)は、特許3693258の特許権者です。特許3693258は特許3693258はプレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg、75mg、150mg)(処分の対象となった物)の製造販売承認に基づいて特許権存続期間の延長登録がされています。延長後の存続期間満了日は2022年7月16日です。
ワーナー-ランバートは、ファイザーに対し本件特許権に係る専用実施権を設定しており、ファイザーはリリカカプセル、リリカOD錠を販売しています。効能・効果は「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」です。
一方で、2017年1月16日に特許3693258に対する無効審判(請求人:沢井製薬、参加人:15社)が請求され、2020年7月14日に一部無効審決(請求項1、2は無効)が出ています。これに伴い、2020年8月17日に以下の後発品を含む22社のリリカ後発品が製造販売承認され、その後発売されました。
●販売名:プレガバリンOD錠25mg「明治」、75mg「明治」、150mg「明治」
●一般名:プレガバリン
●製造販売元:日新製薬
●販売元:Meiji Seikaファルマ
上記の一部無効審決は下記ブログで紹介しています(その後、審決取消訴訟の判決が出ましたので後日ブログにアップします)。
<リリカ特許の無効審判> 医薬用途の訂正及び実施可能要件・サポート要件が認められなかった審決例
審決紹介
・審判番号:無効2017-800003
・審判請求日:2017/01/16
・審決日:2020/07/14
・審判官:滝口尚良 穴吹智子 井上典之
・請求人:沢井製薬 株式会社
・参加人:日新製薬 株式会社等
・...
また、小林化工(上記22社の1社)のリリカ後発品に対する侵害訴訟の判決を下記ブログで紹介しています。
<東京地裁/リリカ用途特許の侵害訴訟> 「痛みの処置における鎮痛剤」は実施可能要件・サポート要件を満たさないと判断され、訂正も認められなかった事例(ワーナー対小林化工)
判決紹介
・令和2年(ワ)第19927号 特許権侵害差止請求事件
・令和3年12月24日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 國分隆文 小川暁 佐々木亮
・原告:ワーナー-ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー ...
本訴訟は、ワーナー-ランバートが、日新製薬、Meiji Seikaファルマ(被告)に対し、プレガバリン OD 錠25mg「明治」等の販売等が特許3693258の特許権を侵害していると主張して、販売等の差止め及びその廃棄を求めた事案です。
結論としては、上記の小林化工の判決と同様です。詳細は上のブログをご参照ください。
本判決の特徴的なところとして、医薬用途の一行記載(痛みの名称の列挙)があってもそれだけでは効果を理解することはできないため訂正はNGという説明がされているので、参考までに以下に記載しておきます。
判決
第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点2-1(訂正事項1及び2に係る訂正は新規事項の追加に当たるか)について
(1)特許法126条5項(134条の2第9項が準用)は,「第1項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定するところ,これに違反するときは,当該訂正は,訂正の適法要件を欠き,原告の訂正の再抗弁が認められないこととなる。しかして,特許法126条5項の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正がこのようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができると解される(知財高裁平成20年5月30日特別部判決・判例時報2009号47頁参照)。
(2)まず,訂正事項1及び2に係る技術的事項について検討する。
ア 訂正事項1は,訂正前の請求項において「痛みの処置における鎮痛剤」としていた部分に,「痛覚過敏又は接触異痛の」という文言を付け加えることで,本件発明1及び2の処置の対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に特定するものである。
イ 訂正事項2は,訂正事項1に更に「神経障害又は線維筋痛症による,」という文言を付け加えることで,本件発明2の処置の対象となる「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の原因を,「神経障害又は線維筋痛症」に特定するものであり,神経障害性疼痛又は心因性疼痛である線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みを処置の対象とするものである。
(3)そこで,これらの技術的事項と,本件明細書の記載との関係が問題となるところ,前記説示のように,本件明細書において,当業者が,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛に分類される痛みに対する鎮痛効果を有することを理解できる根拠となるに足りる記載があるとは認められない。そして,本件明細書の全ての記載を精査しても,本件発明1及び2が,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(訂正事項1)に対して鎮痛効果を有するという技術的事項や,神経障害性疼痛又は心因性疼痛に分類される「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(訂正事項2)に対して鎮痛効果を有するという技術的事項については,記載されていない。また,前記説示のとおり,本件優先日当時の技術常識に関する原告の主張は採用できず,訂正事項1及び2の技術的事項が,本件明細書の記載から自明なものであるということもできない。
以上によれば,訂正事項1及び2の技術的事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものというほかなく,訂正事項1及び2に係る訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」(特許法134条の2第9項,126条5項)での訂正とはいえない。
したがって,本件発明1及び2にかかる特許について,原告の主張する訂正の再抗弁は理由がないこととなるから,同特許に係る特許権に基づく原告の請求は,理由がないことに帰する。
(4)原告の主張について
原告は,①訂正事項1について,本件明細書に,カラゲニン試験が記載され,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されており,また術後疼痛試験が記載され,熱痛覚過敏及び接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されているから,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して本件化合物を用いることが開示されている,②訂正事項2について,本件明細書に,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれる痛みとして,「神経障害」の痛み,「線維筋痛症」が記載されており,しかも,神経障害の痛みや線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生じることは,本件優先日当時の技術常識であったなどと主張する。
しかし,上記主張①については,前記説示のとおり,本件優先日当時の技術常識に係る原告の上記主張(慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,全て,末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,末梢や中枢の神経細胞の感作が生じた原因にかかわらず,直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで痛みを治療できることが知られていたものであること)は認められず,そうである以上,本件各薬理試験(カラゲニン試験,術後疼痛試験)が,上記のような神経細胞の感作を反映したものであることが知られていたとも認められない。すなわち,前記説示のとおり,カラゲニン試験及び術後疼痛試験は,いずれも侵害受容性疼痛に分類される炎症性疼痛等に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であり(前記2(4)),原告の主張するように,直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで痛みを治療できることが知られていたことなどを理由として,これらの試験について,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される痛み(「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」が含まれ得る。)に対する鎮痛効果を測定する試験であるものと評価することはできないというべきである。そうすると,カラゲニン試験及び術後疼痛試験に関する記載をもって,本件明細書に,本件化合物が,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される痛みに対する鎮痛効果を有するという技術的事項が記載されているとみることはできない。
また,上記主張②については,確かに,本件明細書には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれる痛みの名称を列挙した箇所があり(前記2(2)),「神経障害」の痛みと「線維筋痛症」も当該箇所に記載されている。しかし,前記説示のとおり,当業者においては,当該箇所に,各痛みの名称等が記載されていることのみをもって,本件発明1及び2に係る本件化合物の,当該痛み(「神経障害」の痛みと「線維筋痛症」)に対する鎮痛効果を理解することはできない。そうすると,当該箇所をもって,本件発明1及び2に係る本件化合物が,神経障害の痛みや線維筋痛症による痛みに対する鎮痛効果を有するという技術的事項が記載されていると評価することはできず,こうした事項が,本件明細書,特許請求の範囲の記載の全てを総合することにより導かれるということもできない。
以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
・・・
3 争点2-1(訂正事項1及び2に係る訂正は新規事項の追加に当たるか)について
(1)特許法126条5項(134条の2第9項が準用)は,「第1項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定するところ,これに違反するときは,当該訂正は,訂正の適法要件を欠き,原告の訂正の再抗弁が認められないこととなる。しかして,特許法126条5項の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正がこのようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができると解される(知財高裁平成20年5月30日特別部判決・判例時報2009号47頁参照)。
(2)まず,訂正事項1及び2に係る技術的事項について検討する。
ア 訂正事項1は,訂正前の請求項において「痛みの処置における鎮痛剤」としていた部分に,「痛覚過敏又は接触異痛の」という文言を付け加えることで,本件発明1及び2の処置の対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に特定するものである。
イ 訂正事項2は,訂正事項1に更に「神経障害又は線維筋痛症による,」という文言を付け加えることで,本件発明2の処置の対象となる「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の原因を,「神経障害又は線維筋痛症」に特定するものであり,神経障害性疼痛又は心因性疼痛である線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みを処置の対象とするものである。
(3)そこで,これらの技術的事項と,本件明細書の記載との関係が問題となるところ,前記説示のように,本件明細書において,当業者が,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛に分類される痛みに対する鎮痛効果を有することを理解できる根拠となるに足りる記載があるとは認められない。そして,本件明細書の全ての記載を精査しても,本件発明1及び2が,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(訂正事項1)に対して鎮痛効果を有するという技術的事項や,神経障害性疼痛又は心因性疼痛に分類される「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(訂正事項2)に対して鎮痛効果を有するという技術的事項については,記載されていない。また,前記説示のとおり,本件優先日当時の技術常識に関する原告の主張は採用できず,訂正事項1及び2の技術的事項が,本件明細書の記載から自明なものであるということもできない。
以上によれば,訂正事項1及び2の技術的事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものというほかなく,訂正事項1及び2に係る訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」(特許法134条の2第9項,126条5項)での訂正とはいえない。
したがって,本件発明1及び2にかかる特許について,原告の主張する訂正の再抗弁は理由がないこととなるから,同特許に係る特許権に基づく原告の請求は,理由がないことに帰する。
(4)原告の主張について
原告は,①訂正事項1について,本件明細書に,カラゲニン試験が記載され,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されており,また術後疼痛試験が記載され,熱痛覚過敏及び接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されているから,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して本件化合物を用いることが開示されている,②訂正事項2について,本件明細書に,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれる痛みとして,「神経障害」の痛み,「線維筋痛症」が記載されており,しかも,神経障害の痛みや線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生じることは,本件優先日当時の技術常識であったなどと主張する。
しかし,上記主張①については,前記説示のとおり,本件優先日当時の技術常識に係る原告の上記主張(慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,全て,末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,末梢や中枢の神経細胞の感作が生じた原因にかかわらず,直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで痛みを治療できることが知られていたものであること)は認められず,そうである以上,本件各薬理試験(カラゲニン試験,術後疼痛試験)が,上記のような神経細胞の感作を反映したものであることが知られていたとも認められない。すなわち,前記説示のとおり,カラゲニン試験及び術後疼痛試験は,いずれも侵害受容性疼痛に分類される炎症性疼痛等に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であり(前記2(4)),原告の主張するように,直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで痛みを治療できることが知られていたことなどを理由として,これらの試験について,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される痛み(「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」が含まれ得る。)に対する鎮痛効果を測定する試験であるものと評価することはできないというべきである。そうすると,カラゲニン試験及び術後疼痛試験に関する記載をもって,本件明細書に,本件化合物が,神経障害性疼痛や心因性疼痛に分類される痛みに対する鎮痛効果を有するという技術的事項が記載されているとみることはできない。
また,上記主張②については,確かに,本件明細書には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれる痛みの名称を列挙した箇所があり(前記2(2)),「神経障害」の痛みと「線維筋痛症」も当該箇所に記載されている。しかし,前記説示のとおり,当業者においては,当該箇所に,各痛みの名称等が記載されていることのみをもって,本件発明1及び2に係る本件化合物の,当該痛み(「神経障害」の痛みと「線維筋痛症」)に対する鎮痛効果を理解することはできない。そうすると,当該箇所をもって,本件発明1及び2に係る本件化合物が,神経障害の痛みや線維筋痛症による痛みに対する鎮痛効果を有するという技術的事項が記載されていると評価することはできず,こうした事項が,本件明細書,特許請求の範囲の記載の全てを総合することにより導かれるということもできない。
以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
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